「いかに美しく負けさせるかに心を砕いた」 全てを詰め込んだ競馬エンタメ巨編を早見和真が語る (5/5ページ)

早見:この小説の中に、完歩数(馬の歩幅)について触れるシーンがありますよね。
――ロイヤルリブランが出た皐月賞で走った馬全頭の完歩数を数えたという場面ですね。そこで、リブランの強みを導き出した。早見:そうです。これは取材の過程で知り合った現役のジョッキーに電話をして「こういうシーンを書きたいんだけど、普通の馬は皐月賞を何完歩でゴールして、それを何完歩くらい縮められますか?」と質問したんです。そうしたら、その方が一晩中動画を見て調べてくれて、出てきた数字を使っています。取材中には良い出会いがたくさんあって、良い関係を築くことができました。
――おそらく早見さんの熱意が伝わったということではないですか?早見:競馬界の部外者である若手の小説家が、自分たちの業界を書いてくれることを粋に感じてくれる人が多かった気がします。もちろん、「書かれてたまるか」と思っている方もいると思うけど、僕の取材に応じてくれた人たち、そこからつないでくれた人たちは、みんなが幸せになる企画だという共通認識を持ってくれていた。だから、協力してくれたのではないかと思います。
――やはり競馬の世界は閉鎖的なんですか?早見:基本的にはすごく閉鎖的です。嫉妬を剥きだしている馬主さんもいたし。でも、そういった方々にお会いしてこの小説が書けた部分はありました。
(後編に続く)
■早見和真さんプロフィール1977年神奈川県生まれ。2008年『ひゃくはち』で作家デビュー。2015年『イノセント・デイズ』で第68回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)を受賞。『ひゃくはち』『イノセント・デイズ』以外にも、『ぼくたちの家族』『小説王』『ポンチョに夜明けの風はらませて』など多くの作品が映像化されている。他の著書に『店長がバカすぎて』『神さまたちのいた街で』『かなしきデブ猫ちゃん』(絵本作家かのうかりん氏との共著)などがある。