今も昔も女心は難しい。追えば逃げるし、追わねば怒る…とある平安貴族の恋愛模様 (3/4ページ)
「せっかく殿方が訪ねて来て下さったのだから、入れて差し上げればいいのに……」
「しっ」
他人事ながら少しイライラしてきた主人公を、姉がたしなめて様子を窺っていると、男性は懐中より笛を取り出して吹き始めました。
その音色は秋の月夜の侘しさをよく表現し、思わず寄り添いたくなる恋情を誘うものでしたが、しばらく吹き続けても一向に反応がなかったため、男性はついに諦めて笛をしまい、牛車に乗って帰ってしまったのでした。
「荻の葉の こたふるまでも 吹きよらで……」「……あーあ、勿体ない。せっかく来てくれたのに入れてあげないなんて……」
主人公はがっかりした気持ちを、こう歌に詠みました。
「笛のね(音)の ただ秋風と 聞こゆるに
など荻の葉の そよとこたへぬ」【意訳】笛の音が秋風のような哀情を奏でているのに、なぜ荻の葉はそよがないのかしら……。
想い人が来てくれたのだから、つまらぬ意地など張らず、限られた夜を楽しく睦み合えばいいのに……そんな明朗快活な少女らしい感想を歌に述べたところ、姉はそっけなく返歌を添えます。