ユング派心理学者のアーノルド・ミンデルが提唱する「コーマワーク」とは (2/3ページ)
ミンデルによると昏睡状態における患者の意識は「変性意識状態」となっており、我々の生活世界とはシンクロしていない。常に夢を見ている状態と似ている。ある患者にコーマワークを実践していたミンデルは、患者の意識世界には船が止まっており、乗船するべきか迷っていることがわかった。ミンデルはその船に乗るか乗らないか、対話によって逡巡している本人に決めさせた。そして患者は「船」に乗ることを決めた。その30分後、患者はまもなく息をひきとったという。コーマワークでは大抵の場合、能動的な選択(乗る、歩く、登るなど)は彼岸への旅立ちを意味するようだ。ミンデルは、人間は最後の選択を自分で選べるのだと主張し、コーマワークはその手伝いなのだとする。
このケースからもわかるようにコーマワークは「セラピストが昏睡状態から意識を取り戻させる」技術ではなく、患者本人に生死の選択を自己決定できるように導くターミナルケアとしての技術であるようだ。ミンデルは人間は死ぬ間際において生きるか死ぬかの最終決定を自分で選べるよう導くべきだとする。昏睡・植物状態の患者の生死は、意思がないと見られる以上は最終的には周囲に委ねられるわけだが、コーマワークによって「死の自己決定権」の議論に一石を投じることになるかもしれない。
■心と脳を同一とするか否か
昏睡状態、脳に損傷をきたした状態などでも変性意識状態として意識は活動しており、対話も可能になる。ミンデルのこの主張は現代医学では荒唐無稽とされるだろう。心と脳は同一であるとする見方が大勢を占めているからだ。しかしいわゆる「心脳問題」は最終的な決着をみていない。心脳同一論から抜け出せば、ミンデルの主張はそれほどおかしい話ではない。ミンデルは脳をテレビ、心をテレビ局とする例えで説明している。テレビの故障は送信者が機能していても、音や映像を得られない状態である。これが正しければ脳障害と昏睡状態の間に単純な関連性はないということができる。
では、より深刻な脳死判定をされた人ならどうだろう。脳波検査は電極を頭皮の上に当てるだけに過ぎず、脳に直接あてるわけではないことはあまり知られていない。意識があったとしても、ミンデルの症例のような極めて微弱なものであった場合、頭皮にまで到達してないこともありうるのだ。