ユング派心理学者のアーノルド・ミンデルが提唱する「コーマワーク」とは (3/3ページ)
脳死者に意識はあると思われるデータは少なくないのである。
■植物状態から生還した人の証言によると…
植物状態から生還した人の証言によると脳の損傷から回復しつつあり、変性意識状態(つまり夢を見ているような状態)になっていたが、医師の口から「病気」「昏睡状態」といったネガティブな言葉を投げかけられ、意識が再び混濁したという。彼らには意識があり、他者の声に非常に敏感である可能性があるのだ。脳にいかなる損傷があったとしても、どうせわからないと思って配慮に欠ける言葉を口にするべきではない。心脳同一論から見た昏睡・植物状態、脳死患者はモノに過ぎないが、同一論から脱却した時、そこにいるのは何も変わらない大切な人の姿である。
■コーマワークの可能性
コーマワークは昏睡状態の患者の意識を我々の日常世界に呼び戻す技術ではない。変性意識状態にある患者の意識を「魂」を解放する手助けである。現状ではコーマワークがどこまで妥当性を持ちうるかは未知数である。ミンデルは多くの症例を挙げてはいるが、ユング・フロイトらを起源とする深層心理学は海外では疑似科学として批判されており、コーマワークを許可する病院は少ないと思われる。こうした状況で医療的に有意なエビデンスを満たしているとは思えない。
しかし昏睡状態の人とのコミュニケーションは魅力的な試みとはいえないか。昏睡状態に陥った家族のそばに寄り添い、心電図とにらめっこしたあげく、電波が水平になったことがお別れの合図では悲しすぎはしないか。それよりも対話を通じて旅立ちを見送ることができると考えられるなら、介護の意欲も上がるだろう。コーマワークの知識を身につけ、普段から身近な人の反応の特徴を把握しておくことは無駄ではないと思うがどうであろうか。
■参考資料
■アーノルド・ミンデル著/藤見幸雄訳「昏睡状態の人と対話する―プロセス指向心理学の新たな試み」NHKブックス(2002)
■藤見幸雄・諸富祥彦編著「プロセス指向心理学入門」春秋社(2001)