脳のごくわずかな領域に「意識のエンジン」が発見される(米研究)
metamorworks/iStock
「意識」とは、脳が自分の今ある状態や、周囲の状況などを認識できている状態のことである。だが脳のどの領域が反応し「意識」を作り出しているのかはこれまで解明されていなかった。
だが新たなる研究でその謎が明らかになりつつある。
サルを使った実験で、意識を作り出しているのは、脳の奥深くにあるわずか3ミリほどの小さな領域である可能性が明らかになったそうだ。その領域は「外側中心核」という。
研究者によれば、この脳回路は一種の「意識のエンジン」として霊長類における意識的な思考や感情を生じさせているという。
・外側中心核を刺激するとサルの意識が覚醒
アメリカ、ウィスコンシン大学の研究グループは、麻酔で眠るマカク(オナガザル科)の脳のさまざまな部位に電極を取り付け、50ヘルツの周波を流すという実験を行った。
視床にある僅か3ミリほどの外側中心核を刺激したとき、科学者を仰天させることが起きた。麻酔が効いているはずのマカクが目を覚まして、脳機能が回復したのだ。しかし刺激を止めると、マカクはすぐに眠りへ戻って行った。
過去の研究や、パーキンソン病・認知症・多発性硬化症の治療を通じて、人間や動物の脳を刺激すると覚醒する場合があることが知られていたので、マカクが目を覚ますこともあるだろうとは予測されていた。
だが「とにかく強力」なその効果を実際に目の当たりにして、研究グループのミシェル・レディンボー氏は驚いたそうだ。
マカクは深く麻酔が効いていたにもかかわらず、目を開いて部屋を見回しました。刺激を入れて数秒しか経っていないのに、物に手を伸ばそうとすらしました。そして刺激を止めるとすぐに、何事もなかったかのように意識がなくなりました。

davidevison/iStock
この研究では、2匹のマカクの神経活動が記録された。ここでのポイントは、脳の複数の領域が同時に測定されていたことだ。
それだけではなく、各領域の神経細胞を模倣するために、たくさんの小さな電極をその形状に応じてあてがい、さらに覚醒時・睡眠時・麻酔時の状態も計測された。
「これによって、意識を直接操作し、意思伝達や情報フローの変化を正確な空間的・時間的特異性でもって記録することができました」と、レディンボー氏は話す。
意識に関わる領域をこれまでになかったほどピンポイントで探り当てることができたのは、こうしたアプローチのおかげだ。

sudok1/iStock
・意識は外側中心核と皮質深層部の相互作用によって生じる
この結果からは、外側中心核と皮質深層部の2領域間には、相互作用の関係があるらしいことを窺い知ることができる。そして、この関係が「意識のエンジン」として機能しているのだそうだ。
今回の実験はサルを対象としたものだが、マカクの脳は人間にもっとも近い動物モデルだとされており、脳の構造や機能にはいくつもの重要な類似点がある。ゆえに、この結果から人間の意識についても推測することができるのだ。
人間をはじめとする心を持つ動物がいかにして世界を認識しているのか? これは科学者を長年悩ませてきた謎だ。
レディンボー氏によれば、花の匂いを嗅いだり、ピンの鋭さを感じたりする能力は、脳の表面にある「大脳皮質」と脳の核である「視床」の相互作用によるものだという。
しかし、今回の研究でようやく、ここに関与している経路や構造を正確に絞り込むことができた。

Gerd Altmann from Pixabay
・将来的には意識障害の治療に役立つ可能性も
脳の奥深くを電極で刺激することで、将来的には昏睡状態に陥っている患者の意識を回復させるような治療が確立されるかもしれない。
あるいは手術中に患者が誤って目を覚さないよう眠らせ続けたり、意識障害の治療といった応用も考えられるだろう。
いずれにせよ、意識の謎の解明までにはまだまだ先が長い。「今回の結果は、意識を作り出す特定の神経経路の重要性を指摘していますが、研究はここで終わりではありません」とのことだ。
この研究は『Neuron』(2月12日)に掲載された。
References:inverse / sciencealertなど/ written by hiroching / edited by parumo