捨てられた恨みで怨霊に…『今昔物語集』より、復讐に燃える妻から逃げる夫、そして陰陽師のエピソード (6/6ページ)

Japaaan

(あれ?じゃあ何で、俺はコイツを捨てたんだ?)

確かに嫌なところもあったけれど、それは自分だってお互い様だし、逆によいところだってたくさんあった。結局、いっときの感情で妻を叩き出してしまったことに、夫は気づかされます。

(思えばコイツは身寄りもなく、俺だけが恃みだったんだな……それをまるでボロ雑巾のように捨ててしまって……)

何だかんだで楽しかった夫婦生活。その尊さに、もっと早く気づけていれば……(イメージ)。

ここへ来て、夫は初めて妻に申し訳なく思ったのでした。ふと涙が出て、妻のうなじに滴り落ちてしまいましたが、幸い妻は気づかなかったようです。

「……アイツがいない……ここにもいない……」

必死に自分を探し求める姿に同情を覚えていると、次第に東の空が白じんで来ました。

「……あぁ、背中が重たい……首が痛い……」

何度も転んでは起き上がり、起き上がっては転びしながら這いつくばるようにあばら家まで戻ってきた妻は、うつ伏せになったまましばらく荒い息をしていましたが、間もなく一番鶏の声が響き渡ると、そのまま動かなくなったのでした。

長い長い恐怖の一夜を、どうにか無事に乗り切れたようです。

エピローグ

「おぉ、無事でしたな」

陰陽師が戻って来ると、それまで放心状態だった夫はようやく妻の背中から下りました。つかんでいた後ろ髪を手放す時は、何だか指の関節が固まってしまったように感じます。

「助かった……」

安心した途端、それまでの恐怖がよみがえった夫は、陰陽師にすがりつくように拝謝しました。

「しかし……コイツには本当に申し訳ないことをしてしまいました……」

「それにもっと早く気づければよかったのぅ……今はせめて、真心をもってご供養申そう」

それからというもの、夫は特に災難もなく長生きして子孫も栄え、陰陽師は出世して大宿直(おほとのゐ)として大内裏(だいだいり。皇居と中央政庁)に務めたということです。

※参考文献:
馬淵和夫ら訳『今昔物語集』小学館、2002年5月

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