捨てられた恨みで怨霊に…『今昔物語集』より、復讐に燃える妻から逃げる夫、そして陰陽師のエピソード (4/6ページ)

Japaaan

これから秘術をもって女の怨霊を呼び覚ますが、あんたは女の後ろ髪をつかんで、何があろうと決して手を離してはならぬ。もちろん声も発してはならぬ。これを破れば、たちまち憑り殺されてしまうぞ」

「ひい……っ!」

「準備はよいか?然らば……ゴニョゴニョゴニョ……」

陰陽師が何やら呪文を唱え、儀式を終えた陰陽師は「一番鶏が啼くころに戻って参るゆえ、それまで無事でおれよ」と言い残し、足早に帰っていきます。

「何だよ、自分は帰っちまうのか……薄情なヤツめ……」

夫は愚痴をこぼしますが、その場に居残るのは陰陽師にとっても危険なのでしょう。気づけばすっかり日も落ちて、辺りは真っ暗。隣家の住人も恐ろしくなって引っ越してしまったようです。

(カァちゃん、頼むから怖いことはしないでくれよ……っ!)

そんな調子のよいことを祈っていると、やがてうつぶせになっていた妻の目が、暗闇の中で光り始めました。

愚痴ばかりの結婚生活?

(でっ……出たーっ!)

尻の下で妻がもぞもぞ動き始め、今にも起き上がりそうです。

(なんまんだぶ、なんまんだぶ……)

普通なら、うつ伏せの状態から成人男性を背に乗せたまま立ち上がるのは非常に困難ですが、ゆっくりとは言え、妻は立ち上がりました。

(やっぱりただ事じゃない……本当にこれは怨霊なんだ!)

今すぐつかんだ髪を放り出し、声を限りに喚きながら逃げ出したいところですが、そんなことをすればたちまち殺されてしまうでしょう。

(でも、ここにいて大丈夫なのか?)

自分の背中に人が乗っていれば、すぐに気づいてしまいそうなものですが、怨霊は自分の背中に気づけないようです。

「あぁ……背中が重たい……首も痛い……」

そりゃあ成人男性が全体重をかけて後ろ髪にぶら下がっているのですから、首が折れても不思議ではありません。ともあれ立ち上がった妻は、よろよろと歩き始めました。

「捨てられた恨みで怨霊に…『今昔物語集』より、復讐に燃える妻から逃げる夫、そして陰陽師のエピソード」のページです。デイリーニュースオンラインは、今昔物語集平安時代陰陽師怨霊夫婦カルチャーなどの最新ニュースを毎日配信しています。
ページの先頭へ戻る