「自分は何も信じられない人だった」川村元気が新作小説で「信仰」をテーマにした理由 (4/5ページ)
自分の信じているものと対立するものを憎みはじめて、それがひいては戦争を引き起こすこともあります。
だから、信じることの美しさと危なさ、どちらも描かないといけないと思っていました。そのために、偶然か必然か、ダンテの『神曲』に倣った3篇構成になったんです。一つだけの目線だと偏るし、二つだと対立構造になってしまう。三つの視点で立体的に神を描くということはこの物語において、とても大事なことでした。

――この物語は、第一篇では夫・三知男が、第二篇では妻・響子が、そして第三篇では娘・花音がそれぞれ主人公となります。第一篇の主人公である三知男は、新興宗教「永遠の声」にはまってしまった響子の洗脳を解くためにいろいろと手を打ちますけど、第二篇で彼自身も「永遠の声」に入信していたことが驚きました。
川村:梯子を外されたような感覚ですよね(笑)。僕自身も書き始めた当初は、通り魔事件で息子を失い、新興宗教に妻と娘を持っていかれて、残った父親がそれと戦うという話をイメージしていました。ですが取材を進めていくと、そういった状況に置かれた多くの方が自分も入信してしまうという話をよく聴いたんです。
とても意外な話でしたが、よく考えてみれば、家族と一緒にいたいという気持ちが優先されるならば、信じたふりをしてでも新興宗教に入るというのも理解できました。ただ、「信じたふり」で入ったつもりでも、本当に(新興宗教を)信じ始めるケースも多いんです。
――「ミイラ取りがミイラになる」というような感覚ですね。
川村:でも、一般社会でもそういうことってありますよね。最初はあまり会社が好きじゃなかったけれど、だんだんと連帯感が生まれて、帰属意識を持ったりして。