「自分は何も信じられない人だった」川村元気が新作小説で「信仰」をテーマにした理由 (2/5ページ)

新刊JP

――「広い」とはどういうことでしょうか?

川村:この小説には、神仏から石や星、薬や占いまで様々な「信仰」が出てきます。取材を進めるうち、親族や友人を見渡せば、誰かしらは何かを信仰している人がほとんどだということに気付きました。蚊帳の外の人はいないテーマだなと思いました。

物語の着想を得てから5年ほど、クラシカルな宗教から、新興宗教、スピリチュアルなどについて取材を重ねました。その中で、はたとそうした宗教や信仰の対象を「信じきれない」自分がいることに気づいたんです。

――どこか疑ってかかってしまう、と。

川村:そうです。何を見ても、どこかで疑っている。そこで自分は「信じられる人」ではなく「信じられない人」なんだと気づいたとともに、実はこの感覚は自分だけでなく、今を生きる多くの人の共通感覚ではないかと思ったんです。「信じられる人」よりも「何も信じられない人」の方が圧倒的多数なのではないかと。
僕はいつも「集合的無意識」という、多くの人が内心に感じているが言語化されていない気分を物語で表現したいと思っています。
そこで、テーマが「信仰」から「不信」にスライドしました。

また、僕はこれまで小説で、「不在」を描くことで「在る」ということを描いてきました。『世界から猫が消えたなら』では猫、『四月になれば彼女は』では恋愛、『百花』では記憶というように。そこで今回は「不信」を通して「神」の正体を描いてみようと思ったんです。

――本作の構想が5年前からあったということは、コロナ禍が始まったのは、この小説を書き始めてからですか?

川村:そうです。書き始めたらコロナ禍になって、世界中の人間が「目に見えない」ウィルスに振り回され、インターネットの中には不信が渦巻いていて、何を信じていいのか分からないという人々の声がより如実に顕在化していきました。

取材を続ける中で、ワクチンも信じられない、国も会社も信じられない……そうした不信の声の中に「家族を信じられない」という声があったんです。

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