浮世絵師・河鍋暁斎が描いた「極楽行きの汽車」という極楽絵図 (4/5ページ)
そして絵の右下、天女たちに背を向けて走る陸(おか)蒸気のそばには、馬頭の車夫が引き、後ろからヤギ頭の車夫が押す豪勢で、ここにも澤瀉紋が描かれた人力車に乗った2人の子どもがいる。美術史家の曽田めぐみによると、勝田家の菩提寺である台東区西浅草の日輪寺(にちりんじ)の過去帳を調べたところ、この子どもたちは、田鶴のいとこで、絵が描かれた明治5年に亡くなった「愛蓮妙相童女」と「遊夢善童子」の可能性が大きいという。それゆえ、この絵は田鶴の追善のみならず、この2人の追善のために制作されたのではないか。しかもこの絵の下絵には、人力車の屋根の上に犬とだるまが描かれており、それらはともに当時、疱瘡除け(ほうそうよけ)にご利益があると考えられていたことから、この2人が疱瘡で亡くなった可能性があると述べていた。
また、列車に並んで座っている2人の男性については不明だが、陸蒸気の後部壁面上の左右にもまた、澤瀉紋が描かれていることから、勝田家ゆかりの人物と考えられる。
文明開化の世にふさわしく、仏教の教導のために長年用いられてきた『極楽地獄めぐり』ですら、最新鋭の蒸気機関車が登場する方がいいのか。それとも「伝統」を護持し、雲または光に乗って移動するように描かれるべきだったのか。
■谷中の瑞輪寺に眠る河鍋暁斎
東京都台東区谷中(やなか)に、日蓮宗の寺院・瑞輪寺(ずいりんじ)がある。本堂を正面に見た右端に、大きなカエルが伏しているように見える、特徴的な石を乗せた墓がある。暁斎の墓だ。かつて「狂斎(きょうさい)」と名乗り、「変わり者」で知られた暁斎らしいものだと言える。暁斎は134年前に亡くなっているので、もうすでに極楽往生していることだろう。しかし今もまだ、地獄極楽めぐりの旅の途中かもしれない。自身が田鶴追善のために描いた絵のような、豪奢な「陸蒸気」に乗っているのだろうか。