帰ってきた言葉のタイムカプセル。自分の言葉が導いた選択と別れ【海のはじまり#9】 (3/3ページ)
2人の間に海がおらず、海ではなく互いの手を握ったのは久しぶりのこと。
夏が涙を流す中、気丈にふるまっていた弥生が電車に乗ってからは夏に背を向け、一切振り向くことがなかったのは、好きなのに別れる2人の決意を揺らがせないためだったのでしょうか。
背を向けながら、夏に涙を見せないように泣く弥生。きっと弱さを見せたら2人の気持ちが変わってしまうかもしれないから。
■良くも悪くも、弥生の人生を変えてしまった言葉
弥生の言葉で水季は産むことを決意しましたし、弥生は夏と別れて自分の人生を生きることを決めました。これだけ見ると、「弥生の言葉が、水季の人生も変え、自分の人生もまた、変えてくれた」悲しい美談のように見えます。
しかし裏を返せば、「弥生の人生を望まぬ方向に大きく変えてしまった」ということでもあります。弥生があの時、あの言葉を綴っていなければ、きっと水季は産む決意をしていませんでした。
そうなれば今ここに海はいないし、夏との幸せな交際がそのまま続いていたわけです。果たしてどちらが弥生にとって幸せだったのか。悪く言えばあの言葉が、弥生が描いていた未来を奪ってしまったともいえます。
良くも悪くも、あのノートが弥生自身の人生を大きく変えたのでした。一見悲しい美談のように見えて、一方で裏を返せばなんとも皮肉な展開。
母親、中絶と、ずっと苦しみと我慢を強いられてきた優しい弥生。今回もまた、犠牲を伴いながらの悲しい選択をせざるを得なくなりました。どうか幸せになってほしい……。
これから、もし、気持ちが変わることがあって、夏と海との人生を歩むようなことがあれば、この意味はまた変わってくるのですが。
海と2人での暮らしを始めることを決意した夏。海にもたくさんの環境の変化が訪れることで新たな問題が生まれると思われますが、果たして……また次回。
(やまとなでし子)