2024年紅麹事案 研究解説「天然物に未知の物質があるのは当たり前である——そしてそれは簡単に同定できない——~ そしてそれがかつ毒性を持つなど、奇跡×奇跡」 (2/6ページ)

バリュープレス

ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエンをはじめとする多数の成分が混在しており、ロットや産地によって組成が異なる。それでも社会はナフサを重要な工業原料として利用している。「未知の微量成分が含まれるかもしれない」という理由でナフサの使用を禁じる議論は存在しない。

 食品も同様である。醤油・みそ・酒・チーズ・ヨーグルト——いずれも発酵産物であり、その中には分析技術の向上によって初めて特定される微量成分が今でも存在する。天然の発酵食品が微量の未知物質を含むことは、それ自体では安全性問題とはならない。

2 本稿の趣旨

 調査報告①・②では、小林製薬が未完了の同定作業に基づいてプベルル酸を有識者会議に報告したこと、そして有識者会議がその問題を見抜けなかったことを行政文書に基づいて記録した。

 本稿では、より根本的な視点から問いを立てたい。

 そもそも、天然由来の食品素材から「ある物質が存在する」と断定することは、科学的にどれほど困難な作業なのか。その困難さを理解せずに行政が断定的判断を下したとすれば、それ自体が問題の本質ではないか——という問いである。

 以下では、天然物科学の歴史的事例を参照しながら、天然物の同定に要する時間と手間について整理する。

3 天然物の同定は、時間のかかる作業である

(1)遠藤章先生とコンパクチン——同定に約2年

 スタチン系薬剤の源流となるコンパクチン(ML-236B)は、三共株式会社の遠藤章博士(現・東京農工大学特別栄誉教授)が青カビから発見した化合物である。遠藤先生はHMG-CoA還元酵素阻害作用を持つ物質を1971年頃から探索し、1973年に活性を確認した。しかし、化合物の完全な構造同定と論文発表に至るまでには、その後さらに約2年を要した。

 当時の技術水準を考慮しても、天然物の同定が「発見=同定完了」ではなく、長い確認プロセスを経るものであることをこの事例は示している。なお、筆者(森)は1989年のメバロチン(プラバスタチン)発売時の講演会に出席しており、スタチンの薬理学的背景に関する基礎的な知見を有している。

「2024年紅麹事案 研究解説「天然物に未知の物質があるのは当たり前である——そしてそれは簡単に同定できない——~ そしてそれがかつ毒性を持つなど、奇跡×奇跡」」のページです。デイリーニュースオンラインは、紅麹サプリメント紅麹文化紅麹冤罪ネットなどの最新ニュースを毎日配信しています。
ページの先頭へ戻る