なぜ鼠径ヘルニア手術は「入院」が主流なのか――日帰り年500件超のクリニックの試み (1/3ページ)
国内で手術件数の多い外科疾患の一つ「鼠径ヘルニア(脱腸)」は、いまも入院治療が主流とされる。仕事や育児、介護を抱える患者にとって、入院は身体的・精神的・社会的な負担を伴う。こうしたなか、埼玉県さいたま市大宮区の「埼玉外科クリニック」は、鼠径ヘルニアの日帰り腹腔鏡手術に特化した診療体制を敷き、2025年の年間手術件数は500件を超えている。患者負担の軽減という方向性と、日帰り適応判断・術後フォロー体制という課題について、院長の松下公治氏に話を聞いた。
患者数は多いのに専門医療機関は少ない 鼠径ヘルニア診療の「需給のずれ」「鼠径ヘルニア」は下腹部の鼠径部が膨らむ病気で、「脱腸」とも呼ばれる。男性に多い疾患として知られ、国内でも手術件数が多い外科領域の一つだ。にもかかわらず、専門外来を前面に掲げて継続的に診療する医療機関は限られている。患者数が多いのに専門医療機関が少ない――この需給のずれを、現場の医師はどう見ているのか。
その背景について松下氏は、「多くの外科医は胃がんや大腸がんなど、生命に直結する疾患の治療を主な専門にします」と説明する。そのうえで、「鼠径ヘルニアも患者数が多く、手術の質を継続して高めるには、症例に集中的に向き合う体制が必要だと考えました」と話し、この分野に特化したクリニックを開設した経緯を語る。
同院では、低侵襲とされる腹腔鏡による日帰り手術を主軸に置き、初診では1人30分の診察枠を設けて説明と対話に時間を割いている。術前後の連絡や経過確認の仕組みも整え、患者の不安軽減を図っているという。松下氏によると、2025年の年間手術件数は500件を超えた。
ただし、専門特化型の体制は、症例の継続的な確保と術後フォローの質が前提となる。特定の医師の経験や運営体制に依存しやすい面もあり、患者利便性と医療機関としての持続性をどう両立させるかは、この分野の専門クリニックが共通して向き合う論点でもある。