柳美里”原稿料未払い”の月刊「創」、社員が続々退社の末期症状

デイリーニュースオンライン

「柳さんまで参戦してきたら、こちらに原稿料の支払いが回ってきそうにないな」と悲鳴を上げるのは月刊『創』(創出版)のある常連ライターだ。

 同誌上で異変が起こったのは11月号(10月7日発行)。前号まで連載されていた作家・柳美里氏の「今日のできごと」のページが何の説明もなく、突然なくなっていたのだ。巻頭グラビアを飾るマッド・アマノ氏のフォトモンタージュ・パロディ(3P)に続く4Pのコラムで、同誌では一番人気の企画だった。休載の理由について、〈柳美里が「落とした」のだと誤解される〉と困ると思った柳氏が10月15日のブログで〈実は、もう何年も稿料が支払われていない〉からだと明かした。

柳美里氏へ1136万8078円が未払いに

 柳氏のブログによると、創出版代表で『創』の編集長兼発行人を務める篠田博之氏宛てに稿料未払い分を振り込んでほしい、でなければ次の原稿を書けないという内容のメールを送ったのが9月1日。翌日、篠田氏から「何とかしようとは思っているのですが、大変な時期に力になれずにいて申し訳ありません」との返信がきたが、その後は11月号の締切(9月20日前後)がすぎても梨のつぶて。しびれを切らした柳氏は10月16日に再度、誠意ある返事を求めるメールを送った。同日、篠田氏は「今月号(11月号)に連載のことについて説明しなかったのは、話し合いをしてからと思ったから」との返信をしてきた。

 柳氏のブログによると、ここ数年の『創』からの年間入金額は、2009年が38万7000円、2010年が10万8000円、2011年が15万3000円、2012年が21万6000円、2013年がゼロ、2014年が4万円とのこと。柳氏側の主張では、連載を始めるにあたって2007年6月に篠田氏から400字詰め原稿用紙3枚で5万円との提示を受けたという。最初に振り込まれたのは5万4000円。源泉前の数字は6万円で400字2万円になるとし、その金額で計算すると、額面1136万8078円が未払いになっているとした。 

 その後、柳氏は『創』内規の最低稿料1枚4000円で妥協するとして、対談のギャラ2回分の6万円を加えた161万800円を払うように求めた。それが10月23日昼過ぎ。しかしその後、篠田氏からは一切、返事がなく(29日正午現在)、怒り心頭の柳氏はブログ上で法的処置に踏み切るとまで宣言している。

社員は遅配で次々と去っていき、原稿料も下落の一途

「数年前からひどい状況にある」と話すのは、前出の常連ライターだ。

「まず、社員の給料の遅配が始まった。そこで多くの社員が去っていき、現在は実質的に編集のほとんどを篠田さん一人でやり、奥さんが経理を担当している。ライターへの不払いが目立つようになったのは3年ぐらい前から。請求すると篠田さんは『払う、払う』と言うんだけど、いつまで待っても入金がない。そこでまた言って、それを何度も繰り返して、やっと数万円の稿料を払ってもらえるんです」

『創』の以前の稿料は1枚5000円。いつごろからか4000円に下がっていたと、この常連ライターは語る。かつてはほぼ毎号に執筆していたが、ここ数年は年3~4回しか書かなくなった。メディアや広告代理店の特集で、ずっと担当してきた企業があり、それだけは仕事を引き受けるものの、他の企画には積極的に関わらなくなったという。いつ払ってもらえるかわからない稿料をいちいち請求しなければならないのが、ライターにとってはしんどいのである。相手は一応、クライアント。完全に決別するつもりなら強くも出られるが、基本的にライターは業界のヒエラルキーの底辺に位置し、弱い立場にある。

 芥川賞作家とはいえ、近年は他のライターと同じく生活難に喘いでいる柳氏。背に腹は変えられぬとばかり、勇気を振り絞って稿料の請求に出たのは想像に難くない。

有名執筆陣の“懐”に甘え続けた篠田編集長

「篠田さんも罪つくりですよね。以前の篠田さんだったら執筆者には何としてでも稿料を払おうとしていたはず。しかし、有名人の起用で、払わなくても何も言ってこない人が多くなり、それに慣れてしまった。いずれにしても、こんなことを続けていたら雑誌の質は落ちるばかり。すでに末期的症状にあり、いつ潰れてもおかしくない」(前出の常連ライター)

 もともと、『創』は総会屋だった藤江三郎氏(故人)という人物がつくった雑誌。総会屋潰しを狙った1982年の商法改正で撤退を決めたが、篠田氏ら3人の編集者が退職金200万円ずつを出し合い、新たな会社「創出版」を設立。『創』は存続されることになった。

 当時、編集部は神保町駅近くにあり、わずか7坪の部屋に山ほど積まれた資料とともに3人の編集者がひしめき合っていた。広告が入らず、600万円の出資金はすぐに溶けてなくなったが、ライター陣にはしっかり稿料が支払われた。編集者たちが身銭を切ることも少なくなかったという。篠田氏にはあのころの気概を取り戻してもらいたいものだが、一方で『創』という雑誌の命脈は尽きた気もするのである。

(取材・文/久芳甫)

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