ドイツでは「X」と表記…第3の性「インターセックス」問題

デイリーニュースオンライン

男でも女でもない第3の性
男でも女でもない第3の性

 あなたは男か女か――。これほど明確な質問に答えられない人たちがいることをご存知だろうか。男でもなく女でもない、また男であり女でもある、そんな「第3の性」が今世界で少しずつ存在を認められ始めている。

オリンピック選手も悩む自身の性

 2012年ロンドンオリンピック女子陸上800mで銀メダルを取ったキャスター・セメンヤ選手(南アフリカ)は、その男性的なルックスと声の低さ、驚異的な走行スピードで、3年前の2009年ベルリン世界陸上優勝時からその性別を疑われていた。

 そして、抗議の声を受け、国際陸上競技連盟が医学的に調査するまで、彼女自身も自分の性別が男とも女とも判別できない「第3の性」であることを知らなかったのだ。彼女の外性器は女性のもの。そのため、彼女自身も周囲も選手は女性と信じて疑わなかった。しかし、彼女の体内には子宮と卵巣がなく、なんと精巣があったのだという。

 実は、スポーツにおける性別詐称疑惑は古くから何度か問題になっており、実際に北京オリンピックでは「性別鑑定室」を設けたほどだ。こうした検査によって客観的に性別が証明できるなら出場権はく奪も可能だが、彼女のようなケースをどう扱うか連盟も途方に暮れた。紆余曲折を経て、大会側も最終的には女子としてセメンヤ選手のオリンピック出場を許可したのだった。

その種類70以上! 分類が難しい「インターセックス」

 第3の性は、一般的にはインターセックス(IS)と呼ばれ、他にも半陰陽や両性具有などと言われているが、それぞれ定義づけは少しずつ違う。その原因の多くは、染色体異常や胎児が胎内で育つ上でのホルモン異常であり、原因や形態の違いにより70種類以上に分類されるが、これらを総称して「性分化疾患」と呼ぶ。

「こういった相談は私のところにも時々ありますが、今のところ対象者に出会ったことはありません。この疾患の発症率は一般的に2000人にひとりと言われますが、この判定も難しい。ちょっとした性器の奇形やホルモンバランスの個人差は誰にでもありますからね。そう考えれば、何をもって100%男、100%女というのかという問題にもなってきます」(大学病院関係者)

 2000人に1人といえばかなり多い確率のように思われるが、多くの場合出生時に外科的処置によって男か女かに決めてしまうため、本人は何も知らず大人になっている場合も多いそうだ。

 しかし、性とは体の形状だけの問題ではなく人格にも影響する。出生時に親が無理にどちらかに決めてしまって、後から心と体の性別の不一致に悩むより、第3の性として受け入れ、心の成長にしたがって自分で性別を決めるべきではという動きも出てきている。

 ドイツでは2013年11月の法改正で、出生証明書に男女の別を記入せず空白で提出することが可能になったし、オーストラリアではパスポートに記載する性別を、「M」(male=男性)、「F」(female=女性)に加え第3の性を意味する「X」が作られている。さらに、インドでも2014年4月、最高裁にて争われた裁判で、自分の性別を自分で決める権利があると認定し、男女以外に「第3の性」を認める判決を言い渡した。またネパールは2007年、バングラデシュは2013年に、「第3の性」を公的に認めている。そして2014年7月には、タイのチェンマイにあるランナー工科技術短期大学にて「第3の性」向けのトイレが開設されたというニュースが報じられるなど、世界的に認知されつつあるのだ。  

 そして、ほとんど知られていないが、ここ日本でも出生届けに性別を空欄(=性別保留)で提出することができる。

 このように法的な受け入れは進んできているが、実際に性別のはっきりしない子供が大人になるには社会的にさまざまな問題をはらんでいる。いつか世の中が進んで、赤ちゃんの出生時に「男の子? 女の子?」と聞かれて「まだわからないの」という返事が一般的になる世の中が来るのかもしれない。

(取材・文/杉本レン 写真/oscarandtara)

「ドイツでは「X」と表記…第3の性「インターセックス」問題」のページです。デイリーニュースオンラインは、スポーツ社会などの最新ニュースを毎日配信しています。
ページの先頭へ戻る

人気キーワード一覧