【都市直下地震】阪神大震災で「人工地震説」はいかにして生まれたか

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世紀の大惨事には陰謀論がつきものだ
世紀の大惨事には陰謀論がつきものだ

 阪神大震災から20年がたった。震災後、さまざまなデマや陰謀論が流布したが、中でも有名だったのは「地震直前にユダヤ系企業と、その従業員、家族が神戸から脱出していた」というものだ。前回の記事では、この噂をさまざまな角度から検証し、デマであるという結論に至った。この記事では、事前脱出説とセットで語られることの多い「阪神大震災人工地震説」ついてレポートしてみたい。

 阪神大震災の「ユダヤ人事前脱出説」と似たようなものに、2000年の9.11米同時多発テロ事件にまつわる噂がある。曰く、テロ前日にゴールドマン・サックスの東京支社内で内部メモが回され、全職員にテロ攻撃の可能性があるという警告が通達されたというものだ。このメモには、アメリカ政府関連施設に近づくな、と全職員に忠告していたという話になっている。

 さらにコスタリカ『レプブリカ』紙やインドネシア『シナール・パギ』紙などが「同時多発テロの当日、世界貿易センタービルに勤務していたイスラエル人従業員4000人は欠勤していた」と報じている。これらの報道は今では単なるデマとして認識されているが、言いたいことは「ユダヤ人は事前にテロが起こることを知っていた」ということであり、9.11テロは「ユダヤによる自作自演説という陰謀論に繋がっていく。

米ベクテル社による「人工地震説」へと発展

 そして阪神大震災の場合も、事前脱出説が、より陰謀色を帯びて「人口地震説」へと繋がっていくのだ。

 人工地震説が噂されたのには、様々な理由がある。まず、阪神大震災は“双子地震”(本震が2段階で起こった)で、専門家によれば、揺れを起こした淡路島の断層だけが原因ではなく、未だ解明されていない別の断層による揺れがあるとされている。この“未解明の断層による揺れ”が、人工的に引き起こされた地震であるというのだ。

 また、震災が起こったその日に、大阪で「第4回日米防災会議」が開催されたことも人工地震説を疑う材料になっている。この会議の目的は、まさに大都市における地震災害対策を話し合うのが目的なのだが、阪神大震災が起こったことにより急遽、現地調査に切り替え、「参加者の中には車をチャーターして神戸に向かった人々も」(神戸新聞・1995年1月18日付)いたという。

 このあまりのタイミングの良さに、一部では米軍による広島・長崎の被爆地調査になぞらえる向きもいる。またこの会議のアメリカ側のメンバーにはFEMA(連邦危機管理庁)が入っているが、地震があるのを知っていたように調査機材を大量に持ち込んでいたという噂も流れた。

 では、どうやって人工的に大地震を引き起こすか。

 核爆弾やプラズマ、ELF(超低周波)、スカラー波などを使用する方法があるといわれている。これらの違いは、要するにパワーを何から得るかの違いであり、基本的には地殻変動のひずみが生じている地点に、力を加えることによって、人工的に地震を起こすことが可能で、例えば旧ソ連時代では実際、開発直前までいき、日本でも報じられた(読売新聞・1991年5月4日付)。これは、小さな核爆弾をプレートのひずみに設置するというもので、地殻構造によっては数千km先で大地震を起こさせることも理論上可能だとしている。

 意外だが、人工的に地震を起こすことは、「爆破地震学」というれっきとした学問のひとつとして存在している。ダイナマイトや圧縮空気を使って、地震を発生させ、地震波の伝わり方や地下のプレートや断層の構造を調べるのである。これらの情報を総合すると、人工的に地震を起こすことは不可能ではない。

 しかし人工地震説で一番の疑問はやはり「誰が何のために」といったことだろう。奇妙なことに『日本が狙われている』(文芸社・三橋一夫著)やオウム真理教(当時、麻原代表が阪神大震災を予言していたと発表していた)、ユダヤ研究者、ネットなど人工地震説を唱える複数の人々が口を揃えて言うのがアメリカのベクテル社の存在である。

 ベクテル社はサンフランシスコに拠点を置くアメリカのゼネコンで、空港、発電所、ダム、パイプラインなどを建設している。これまで、世界中の石油製油施設のほぼ全てと原子力発電所の半分を作ってきた。この企業の特異なところは、世界中で大規模な建設事業を受注しているにもかかわらず、株式は非公開で未だに創業者一族が株の大半を所有しているところにある。アメリカの政権との結びつきも強く、同社の社長だったシュルツと副社長だったワインバーガーはレーガン政権において、それぞれ国務長官、国防長官に就任したことでも有名だ。

 ブッシュ政権でも当然、その流れは継承されており、アメリカ政府が発注する、イラク復興事業の多くは入札競争なしでベクテル社が請け負ったが、バグダッド占領直後から暫定統治が終わるまでのわずか1年半の間でベクテル社に発注されたインフラ復興事業は総額6億8000万ドル(約800億円)にものぼる。

 日本でも今まで様々な工事を請け負ってきた。主なものに、国内の原発をはじめとして、関西国際空港、明石海峡大橋、最近で言うと中部国際空港、東京湾横断道路などがある。

 人口地震説は、このベクテル社が実験的に地震を引き起こし、データを取ることで、今後の事業に活用したのではないかというのである。関空と明石海峡大橋に注目してほしい。震災後もこの2つの建造物は無傷であった。それは以後、ベクテル社が日本、いや世界中で工事を請け負う際、プラス要因になったに違いない。さらに先ほど震災当日に開催された日米防災会議にFEMAの職員が参加していたとことを書いたが、まさにベクテル社とFEMAは一心同体といってよく、イラクやハリケーン・カトリーナの復興事業で両者の絆は固い。

神戸市は米軍の軍事医療基地になるはずだった?

 地震を起こすことによって、データがとれるという利点以外にも、神戸自体の復興事業利権もある。ここでもやはりベクテル社の名前はすぐに出てくる。震災後に計画された、神戸空港を含む、ポートアイランド第2期拡張工事と、神戸市が1999年に打ち出した「医療産業都市構想」である。この構想は神戸をアジアにおける先端医療産業の拠点にしようというもの。神戸空港を使った輸送手段の確保と、ポートアイランド内の医療産業用土地を開発が大きな柱となっていて、ベクテル社が調査、建築にあたっている。そして、この構想自体、実は軍事医療的要素が強く、アメリカの世界戦略の一環だといわれている。政策事業に政権と密接にかかわるベクテル社が出てくるのは当然といえば当然だ。

 陰謀論を唱える人の説をみると、阪神大震災によりベクテル社は莫大な利益を得たかのようにみえる。断層のあった淡路島を通過する明石海峡大橋の建造中に、地震を発生させる何かを事前に仕込んでおいたというストーリーは一部の人たちにはささるのかもしれない。

 しかし大きな矛盾がある。人工地震説をとる人々は口を揃えてベクテル社のことをユダヤ系企業だと断定しているが、これは全く事実と異なるからだ。ベクテル社の内幕に迫った唯一の資料と言われている『ベクテルの秘密ファイル』(L・マッカートニー著・広瀬隆 訳)によれば、ベクテル社の創業者はドイツ移民のアーリア人であり、社内は反ユダヤ主義で支配されていると書いてある。イスラエルからの受注は全て断り、むしろサウジアラビアをはじめ、アラブ諸国と仲がいいのだ。この時点で、ユダヤ系外国人が主役である事前脱出説はもろくも崩れてしまう。

 今まで検証してきたように、事前脱出説は単なるデマや都市伝説の類にすぎないことがわかった。ベクテル社の持つ、秘密のベールに包まれたイメージ、米政権中枢との密接なかかわり……ミステリーに満ちたこの企業の姿が人工地震説と、それに付随する事前脱出説を呼び起こしたのだろう。都市伝説や陰謀論好きな人々にとって、ベクテル社と阪神大震災の関係は、今までのどんなものより想像力をかきたてられ、好奇心を刺激したに違いない。

(取材・文/中山左往 Photo by 松岡明芳)

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