NHK人気キャスター降板は安倍政権との「蜜月」の象徴か

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単なる異動か、それとも政府筋による人事介入か?
単なる異動か、それとも政府筋による人事介入か?

【朝倉秀雄の永田町炎上】

『週刊新潮』1月29日号によれば、NHK「ニュースウォッチ9」の大越健介キャスターが3月末で降板することが内々に決定され、その背景には官邸の意向があったという。一方で、単なる人事異動だという声も──。インターネット上でも話題を集めているこの騒動、真相はどうなのだろうか。

報道機関への干渉が露骨になった安倍官邸

 日本は民主国家であり、「表現の自由」が保証されている。無論、それには報道機関の「報道の自由」も含まれている。しかも「思想の自由」や「表現の自由」などのいわゆる「精神的自由」は、財産権の保障や職業選択の自由などの「経済的事由」に対して優越的地位を占め、従って、それを制約する法律の違憲審査にあたっては、より厳格な基準によらなければならない(いわゆる「二重の基準論」)というのが憲法学の常識だ。

 その趣旨からいっても、大越キャスターがたとえ政府の方針を逆なでするような意見を述べたとしても、それを「気に入らない」といって政府が報道機関の人事に干渉するなど絶対にあってはらないことだ。もしそれを許せば、民主主義は崩壊し、中国や北朝鮮のように、終始、権力者を批判している物書きの筆者などは直ちに「粛清」されてしまう。

 だが、安倍政権は「一強多弱」に増長したように確実に報道機関への干渉を強めつつある。

 自民党が、先の衆議院総選挙(2014年12月)の報道に関し、NHKをはじめ民放キー局5社に対し「中立・公平」を求める「お願い」を送ったことなどはその象徴だろう。これは要望書という形をとってはいるものの、紛れもない「圧力」である。そもそも、テレビやラジオなどは放送法で「中立・公平に伝えなければいけない」ということが決められているのだ。

籾井勝人会長は官邸にべったり

 NHKの現会長である籾井勝人氏は三井物産出身だが、2014(平成26)年1月25日の就任記者会見で、特定秘密保護法について「まあ、いちおう通ってしまったものは言ってもしょうがない」、竹島・尖閣諸島問題については「政府が『右』と言っているのに、我々が『左』と言うわけにはいかない」、報道内容の質問についても「日本政府とかけ離れたものであってはならない」、従軍慰安婦問題についても「今のモラルでは悪いんですよ。戦争をしているどこの国にもあった」などと安倍政権寄りの発言を展開。

 政治的に中立であるべき報道機関の長としては不適切だとして衆議院予算委員会に召喚され、釈明させられただけでなく、7月18日にはNHKの元職員172名の連名で(呼びかけ人と賛同者を合わせると1527名にのぼる)辞任勧告がNHK経営委員会に出されている。

 ある国会関係者は言う。

「籾井会長は安倍総理や菅官房長官とべったりで、実際、報道機関の長としては不適切な発言が多く、そのために昨年度のNHK予算案の審議が、衆議院予算委員会や本会議で紛糾して、共産党だけでなく民主党、日本維新の会、生活の党、結いの党、社民党までが反対に回っています。そんな籾井会長を戴くいまのNHKの体質を考えれば、大越キャスターの降板劇の裏に、政府・自民党のサジェスチョンがあったことは十分に予想されますね」

 これには筆者も同感である。大越キャスターがかつて番組のなかで、安倍政権が原発再稼働に積極的なことに対し批判めいたコメントを口にしたことは確かだが、もしそんなことで権力側が報道機関の人事にまで干渉したとしたら、民主主義も報道の自由もあったものではない。それはもはや「暗黒国家」である。しかし一連の動きを見るに、いま、安倍政権は確実に「自由の敵」になろうとしている。

 筆者は一昨年、某テレビ局の求めに応じ、政府の「官房機密費」と、国会議員たちの「文書通信交通滞在費」のデタラメな使い方について話し、収録を済ませた。ところが、オンエア直前になってディレクターから「上のほうの考えで、朝倉さんの収録部分は放送されないことになりました。申し訳ありません」との連絡が入った。

 理由を尋ねると、「撮りすぎて放映時間内に収まらないことがわかりましたので、悪しからず」と言う。放映時間は最初から決まっており、それに基づいてシナリオを組み立て、取材や収録を行なっているはずで、そんな馬鹿な話はないと思った筆者は「まさか、しかるべき筋から圧力がかかったんじゃないでしょうね?」と食い下がってみると、「そんなことは断じてありません」と言う。

 ちなみに、そのテレビ局の親会社は日本で最も右寄りの論調で知られ、保守政権と二人三脚で歩んできた、それこそ「御用新聞」のようなもの。筆者は「ははん、なるほどな」と思ったものである。実際に圧力がかかったかどうかはともかく、“上のほう”の局員が「これは少々マズいか」と気を利かせて“自主規制”に出た可能性は大いにある。

NHK側が政府・自民党の意向を忖度か

 公共放送であるNHKの予算案と決算は、衆参両院の総務委員会の審査に服さなければならない。だから、NHKは国会近くの「千代田放送会館」に前線基地を設け、国会対策要員が絶えず議員会館内の総務委員たちの部屋を回って情報収集に余念がない。

 総務委員たちの顔色をうかがい、何気ない言葉にも敏感に反応する。委員会に参考人として呼ばれた籾井会長や経営委員、理事ら、幹部がいじめられても困るからだ。

 そういった現実と筆者の経験とを考え合わせると、大越キャスターのこれまでの発言について苦々しく感じていた政府・与党筋から“それらしきこと”をほのめかされ、NHK側が自主的に先手を打った──というのが真相ではなかろうか。

朝倉秀雄(あさくらひでお)
ノンフィクション作家。元国会議員秘書。中央大学法学部卒業後、中央大学白門会司法会計研究所室員を経て国会議員政策秘書。衆参8名の国会議員を補佐し、資金管理団体の会計責任者として政治献金の管理にも携わる。現職を退いた現在も永田町との太いパイプを活かして、取材・執筆活動を行っている。著書に『国会議員とカネ』(宝島社)、『国会議員裏物語』『戦後総理の査定ファイル』『日本はアメリカとどう関わってきたか?』(以上、彩図社)など。
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