北陸ウラ観光スポット…能登半島にある「北朝鮮銀座」の今

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能登半島から見る日本海の様子(写真はイメージです)
能登半島から見る日本海の様子(写真はイメージです)

 北陸新幹線が3月14日に開業となる。

 北陸・信越地方では観光PRに余念がないが、能登半島の中央に位置する石川県志賀町も例外ではない。新幹線を使えば東京から金沢まで最短で約2時間半。JR金沢駅から特急で約30分でJR羽咋駅、そこからバスで約30分──約3時間半で志賀町にアクセスできることになる。

 決して近いとはいえないものの、インターネットには志賀町の名物「あられの乾燥作業」が紹介されている。昔ながらの製法を守り、塩と砂糖だけという素朴な味。3月下旬から販売が開始されるというからタイミングもぴったりだ。

 だが、「新幹線が来たとて、カネが落ちたのは駅前だけやがや」と能登の老夫は憤る。

「しょせんマスコミやら人間がこっちに来るのは、北朝鮮の船が着いたときだけや」

 こんな恨み節も漏れるが、「北朝鮮の船」とは聞き捨てならない。

 今年1月にも、石川県は能登・志賀町に北朝鮮から一隻の木造船が漂着した。日本海側に北朝鮮の船と聞けば、すわ、拉致か工作員かと浮足立つが、老父は言う。

「なんでいまさら驚かんといかんがや。そんなもん、昔からあっちの浜、こっちの入り江で、どこのかしらんボートやらが停まっとってる中で漁に出とった。なにをいまさらダラんことで騒ぎよっても、始まらん。こっちには、とうの前から北朝鮮銀座なんて言われて、そんなのがどこにでもあろうがや」

 地元の古い衆らは冷ややかだ。というのも……。

「わしらが子供の頃なんぞ、浜行きゃどこにでも看板が立っとったがや。『不審者を見たら、すぐに警察に連絡を』ってな。でも、だーれも連絡なんかするもんはおらんかった。いちいちしとったって始まらんがや。得体の知れんもんが多すぎて」

北朝鮮銀座では行方がわからなくなった者がいる

 70年代まで、福井から能登、富山にかけての日本海側の浜辺には、地元警察署の不審者注意の看板がいたるところで目についた。当時から地元警察はわかっていたのだ。

「海辺は夕方になったら危ないんで、わしらも子供の頃は『絶対に暗くなったら海に近づいたらいかん』って、そう、きつく言われとった。みんなわかっとったがや」

 日本海側の集落では夕方になると時折、素姓不明の男たちが浜辺に上がってくるのは暗黙の了解だったのだ。能登だけではなく、富山にかけての海岸沿いには、自然の地形がそのまま港のようになった「船隠しの入り江」と呼ばれる場所が、それこそ無数にある。地元の漁民らでさえ、海の荒れた日にはその入り江に船を退避させていたのだが、そこには、見知らぬボートや小舟が停泊していることがあったのだ。

 夕闇に紛れて、そうした船隠しの入り江から現れる者たちは、ときに堂々と集落のなかを闊歩し、どこからともなく合流して話しこむ様子さえあった。そんなとき、集落の者々は「またか」とばかりに堅く戸を閉め、彼らが去るまで外に出ることはなかった。時折、聞こえてくるのは、異国の言葉だった。

「わしらは、夜はまるで北朝鮮銀座だがやって、そう言うとったわ。連中に見つかると、攫われるっちゅう話もようしとった。あっちでも、こっちでも行方が知れんくなるもんがおりよるって」

 もとより、能登から北陸にかけては、九州地方と同様に朝鮮半島の文化が色濃い場所だ。地元の郷土史研究家が言う。

「金沢を小京都なんて言ってますがね、能登から金沢にかけては、九州と並んで朝鮮半島由来の神様が多い土地なんですよ。能登や福岡は、神社の祖を辿りますとね、たいがい、朝鮮の神様に突きあたるんです。もとからそういう場所ですから。関東はバカ、関西はアホっていいますよね。このまん中に能登・北陸から岐阜、名古屋まで本州を日本海から太平洋に横断する一帯は『ダラ』と呼ぶんです。昔、松本清張もこの方言の研究をしていたことがあります。このダラ圏は能登に流れ込んだ朝鮮の文化が中部に降りた道と重なるのではないかという見方もできるんですよ。だから、能登・北陸は古くから本州における朝鮮文化のひとつの上陸地点であったとも言われています」

 そんな見方が当っているのならば、かつて、船隠しの入り江に乗りつけ、頻々と上陸してきた工作員たちにとっては、北陸の集落など“帰郷”くらいの感覚で訪れていたのかもしれない。

 北陸新幹線開業で首都圏からも身近になったのは、小京都・金沢だけでもなさそうだ。日朝交渉が再開された今、かつて闇夜に紛れて賑わった工作員たちの「北朝鮮銀座」の痕跡を探しに、海岸沿いまで足を伸ばしてみるのはどうだろうか。

 拉致被害者の方々の一部は、こうした北朝鮮銀座を抜け、船隠しの入り江から工作員らに拉致されたのだ。いかに、身近な場所に危険が潜んでいたか、そして異国の地ではなく、生活圏で拉致されるという恐怖がどれほどのものだったか、見えてくるのではないだろうか。

(取材・文/田中学 Photo by Nao lizuka via Flickr)

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