藤子不二雄のダークサイド怪奇作品「のび太もしずかちゃんも皆でラリる」

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『ドラえもん』25巻にはガスを吸ってみんなでラリる作品も
『ドラえもん』25巻にはガスを吸ってみんなでラリる作品も

 金沢・富山-東京間の北陸新幹線が開通し、北陸がぐっと身近になる今日この頃。しかし、地理的に身近になろうとも、富山に関する知識と言えば県民総出で薬を売っているイメージしかありません。

 ですが、富山は薬だけではないのです。実はあの藤子不二雄両先生の故郷でもあるのです。

 そこで今回は藤子不二雄マニアでもある芝浦慶一氏を訪ね、我ら一般人にはあまり知られていない藤子不二雄ワールドの一端を紹介してもらいました。子供の頃に読んでいても気付かなかった複雑怪奇な世界が藤子不二雄には数多眠っている……。

1. エスパー魔美の尿テレポーテーション(「第15話 地底からの声」(「エスパー魔美3」収録))

 合宿の夜、怪談を聞かされて夜一人でおしっこにいけなくなった魔美。友人の幸子を起こして連れションをお願いするも、眠いと言われ拒否されてしまう。魔美を襲う強烈な尿意! しかしトイレに行くのは怖い! 

 進退窮まる彼女だが、幸いにも魔美はエスパーであった。魔美は部分テレポーテーションを用い、己の膀胱内の尿を幸子の膀胱へと移動させる! 幸子はトイレに駆け込み、魔美は安らかな眠りを迎えるのであった。

 ひどい紹介してくれた芝浦氏によると、「エスパー魔美は魔美の全裸デッサンシーンが何ページにも渡り続く回があるなど、基本的にエロい漫画なのですが、その中でも特段にエロいのがここです。幸子さんが、自分のものと魔美のものが混ざったものを排尿するのかと思うと、とてつもなくエロい」とのこと。

 それは分かる。なお、尾玉なみえ先生の「少年エスパーねじめ」でも、便意を覚えた超能力少年が少女の腸内に自身のうんこをテレポートさせていましたが、もしかするとこれが元ネタなのかもしれません。

2. 暴動を起こし、「自殺集団の先生」として勲章を受ける主人公(「自殺集団」(「藤子・F・不二雄大全集 モジャ公」収録))

 人が死なない星、フェニックス星へとやってきた宇宙家出少年の空夫くん一行。しかし、長寿と不死によりフェニックス星人は皆生きる気概や覇気を失っていた。主人公たちは空腹のあまり狂言自殺を企て、人々の同情心を買って食いつなごうとするも、これが思わぬ騒動へと発展する。

 一万年死人の出なかったフェニックス星では「死人が出る」ことは一大イベントであり、主人公たちは「自殺集団の先生」と敬われ、彼らの盛大な自殺を祝して「自殺フェスティバル」なるイベントが挙行される運びとなったのだ。

 チケットを買えなかった人々が暴動を起こすも、大統領は「今日ほどよろこばしい日はありませなんだ。なんと! この星で暴動がおこったのです!」「ねむっているように、ただ生きているだけだったフェニックス人が暴動をおこしたのです!」と喜色満面で熱弁し、主人公三人に勲章を贈る。

 21エモンの後継作である「モジャ公」は21エモンと同じく、あちこちの異様な文化風習の星でのカルチャーギャップを描いています。「人が死ぬ」ということの感覚を失って久しいフェニックス星人が人の死を見せ物にして全力で楽しんだり、「戦争」という概念を知った後は主人公たちを放置してそっちの見物に群がるなど、尖ったブラックユーモアが炸裂しています。

3. のび太もスネ夫もしずかちゃんも、みんなでラリる(「ヘソリンガスでしあわせに」(「ドラえもん 25巻」収録))

 へそから送り込み心と体の痛みを消すガス「ヘソリンガス」を使ったのび太たちは、みんなで「殴られても痛くない」「叱られても辛くない」ハッピーな気持ちになり、ガスを管理するジャイアンたちに30分10円を支払いながらヘラヘラして生き続ける。

 もはや解説不要。ドラえもんもこの道具の危険性を重々承知していたようだけれど、未来デパートは何を思ってこんなものを市販していたのか。そしてドラえもんはなぜこれを買ってしまったのか……。

 ドラえもんは今読むと暴力描写のバイオレンスさが結構激しくて、頻出する表現が「バットで人の頭を殴る」です。ジャイアン母もジャイアンの頭をバットで殴ります。……躾の範囲をとうに超えている。ヘソリンガスでラリったスネ夫とジャイアンが互いの頭をバットで殴打しながら笑って走り去っていく描写には狂気を感じます。

4. 一ヶ月後に侵略される未来を防ぐ、複雑極まるタイムトラベルミステリー。(「ガラパ星から来た男」(「ドラえもん第44.5巻」収録))

 新作ゲームソフトの購入資金を一ヶ月後の自分から得ようとするのび太。だが、タイムマシンで行った一ヶ月後の世界で彼はアリ人間と出くわす。ドラえもんに報告しようとするも、のび太の不埒な企みを悟ったドラえもんは、未来から帰ってきたのび太に対し、有無を言わさずワスレバットで殴打し記憶を飛ばす。

 一ヶ月後に迫る世界の危機……漠然とした不安を覚えつつも思い出せないのび太……果たして一ヶ月後の危機の原因とは……? 記憶を失いしのび太の行動が世界の破滅を招く……。

 藤子・F・不二雄先生の、大長編を除くと最後となるドラえもん作品。時系列と展開が異様に複雑なタイムトラベルミステリーで、時空を超えて危機を知らせようとするのび太、時空を超えてのび太を阻止せんとするアリ人間、さらにそこに有無を言わさずワスレバットでのび太を殴るドラえもんの存在が話を複雑化させています。

 謎と不穏な気配がそこにあるのに、ドラえもんがポコポコ殴るたびに記憶が飛ぶので肝心なところで話が進まず、すっごいモヤモヤする! この作品には違う時間から来た二人ののび太が存在し、もともといたのび太Aと、未来からやってきたのび太Bで、話が進むとのび太Aがのび太Bになる(時間が経過したため)構成となっています。

 44.5巻には「のび太のパラレルMAP」なるものが付属して時間の流れを解説していますが、そのくらい難解な構成の作品と言えます。

***

 マニアックな作品ほど面白さが文章で伝えづらいので、結果的にメジャーな作品ばかりの紹介となりました。筆者は芝浦氏から『スリーZメン』の面白さを1時間くらい説かれたんですが、よく分からなかったので……。

 上記四作品は全てF先生の作品ですが、A先生の作品では『黒ベエ』『ハレムのやさしい王様』なども通好みとのことです。後者は「善意にあふれた日本のサラリーマンがタイに行き、金にモノを言わせて未成年と思われる少女を善意で7人ほど囲い、善意のままセックスにふけるという非常に素晴らしい作品」だそうです。

 ところでドラえもんですが、余った時間でぺらぺらと単行本を読んでいると……。体の皮を剥いで作ったスネ夫とジャイアンの等身大皮人形が全裸で互いを見つめ合う「からだの皮をはぐ話」、スネ夫が犬の首輪をしずかちゃんにプレゼントする「ヨンダラ首わ」、のび太が犬の食ってる残飯を頬張って嘔吐する「家がだんだん遠くなる」、宇宙が栗まんじゅうに満たされる「バイバイン」、奇形化したのび太が町を跳び歩く「分解ドライバー」など、結構どれを読んでもヤバくて、大人になって見ると藤子先生のダークな才能に驚かされるばかりです。

著者プロフィール

作家

架神恭介

広島県出身。早稲田大学第一文学部卒業。『戦闘破壊学園ダンゲロス』で第3回講談社BOX新人賞を受賞し、小説家デビュー。漫画原作や動画制作、パンクロックなど多岐に活動。近著に『仁義なきキリスト教史』(筑摩書房)

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