【海外メディアによる日本の問題】施設で暮らす日本の子どもたちの現状について考える
中東・カタールのテレビ局で知られる『アルジャジーラ』で、『Japan's throwaway children(日本の見捨てられた子どもたち)』というタイトルの記事がありました。 恥ずかしながら、このニュースを通じて筆者は初めて、虐待や育児放棄、死別など、さまざまな理由で親と一緒に暮らせずに施設で生活している子どもたちが日本に3万6,000人以上居ること、その子たちのために養子縁組とはまた違う里親制度というシステムが日本にあること、そしてその里親制度が上手く活用されずに85%の子どもたちが施設で暮らしているということを知りました。 今回は、アルジャジーラで報道された“家庭”のない子どもたちの現状、その子どもたちを支える日本のシステムについて、見てみましょう。
まずは動画 『Japan's throwaway children (日本の見捨てられた子どもたち 日本語字幕)』 をご覧ください
出典: You Tube
この特集は『親が育てられない子どもに家庭を!里親連絡会』さんの手掛けた日本語字幕付きで、約25分あります。
若干長いですが、日本が抱えた問題を、改めて見ることができます。
「血縁」重視で養子縁組や里親制度が浸透しないのか?
養子縁組や里親制度が日本で浸透しない理由は、日本が「血縁」を重視するため、血縁者以外の子どもを育てるというシステムに馴染みがないのではないか、という考えもあります。
たしかに、筆者の周りでも「自分に子どもができなかったら養子…?そこまでしなくてもいいかなぁ…」という人や「養子をもらっても、戸籍には実子ではない事実が残るんだよね…」「里子をもらっても権利は実親にあるから…。別れるときもつらいし」ということを気にする人が居ます(実際は「養子縁組里親」という養子縁組前提の里親制度もある)。このように「血縁」を重視する人がいるという事実は、あながち間違ってはいないと思います。
ですが、明治時代や大正時代生まれなどの、祖父や曾祖父の時代の人たちは、“養子に出した”“養子をもらった”“または婿入りした”“婿をもらった”など、「血縁」を絶やさないために「家督を継ぐ人」が重視されていた時代があったはずです。そう考えると、今の時代でも養子縁組や里親制度が浸透しないのは、昔ほど家督に執着する人が少なくなった、もしくは(福岡市で里親制度の周知を図った結果、里親等委託率が大幅に上がったことを考えると)単なる制度の認知不足――など、違う原因があるのかな?と、個人的には思えてしまいます。
“家庭”の温かさを求める施設の子どもたち

出典: You Tube
動画では10~20代の、施設で育った男性が2~3人登場します。
どの男性も共通して話す施設の現状に、
1)ほかの子たちと距離を取りながら暮らすため、安らげる場所がない
2)職員は自分以外の子ども面倒を見なければいけないので、親のように一緒には居られない
3)施設を出て社会人として働くことになっても常識や一般的な生活の経験がないため、自立に不安
4)施設は衣食住を提供してくれるけれども、大人になる準備は施設を出てから自分で学ばないといけない
――ということを挙げています。
7:30辺りで出てくるケンジさんは、街工場で働くことになり、上司に「駅から出てすぐの建物だから」と言われても、どの建物も同じに見えてしまい、電話の掛け方も分からず、交番がどこにあるかも分からないので目的地の場所に行けず、気付いたらクビになっていたと語っています。
日本は養護施設に偏重、里親制度の浸透ままならず

出典: 厚生労働省 社会的養護の課題と将来像の実現に向けて(平成27年3月版)
アルジャジーラの特集では、日本全国で児童養護施設が600以上あり、虐待や育児放棄された子どもたちの数は3万人以上。そのうちの85%は児童養護施設に入ると伝えています(1:00辺り)。
施設に入らない子どもたちは養子縁組や里親制度を利用して縁があった家庭で育てられます。
厚生労働省の発表する『社会的養護の課題と将来像の実現に向けて(平成27年3月版)』という資料の中にある、『諸外国における里親等委託率の状況』=表=を見てみます。2010年前後の各国の要保護児童(保護者のない児童や保護者に監護させることが不適当であると認められる児童のこと)に占める里親委託児童の割合は、オーストラリアが93.5%とトップ。続いて香港(79.8%)、アメリカ(77.0%)となっています。
この中で日本は10カ国中10位と最低の12.0%。9位の韓国(43.6%)にも大きく差が付き、日本の里親制度が活用されずに90%近くの子どもたちが児童養護施設や乳児院といった施設で育てられている現状が、この数字で明らかになっています。
国内の取り組み結果を見ると、里親制度は徐々に浸透中

出典: 厚生労働省 社会的養護の課題と将来像の実現に向けて(平成27年3月版)
日本の里親制度の利用水準は、世界標準にはまだまだ及ばないながらも、日本国内の69都道府県市の自治体レベルで見てみると、近年は里親に預けられる子どもの数が年々増えてきています。平成25年度末の施設(児童養護施設と乳児院の合計)の入所児童数は30,413人、里親等委託児童数は5,629人。割合で見ると施設入所率が84.4%、里親等委託率が15.6%となっています=表。
今から13年前の平成14年度末の全国の里親等委託児童数は、2,517人(里親等委託児童率7.4%)、25年度末は5,629人(同15.6%)。約10年で8.2ポイントの増加です。里親等利用率を見るかぎり、里親制度は日本国内で徐々に浸透してきているのが分かります。
「施設の空きがない!」がきっかけで里親が大幅上昇

出典: 厚生労働省 社会的養護の課題と将来像の実現に向けて(平成27年3月版)
上記の表は、69都道府県市別に里親等委託率をグラフ化したものです。最も里親制度を利用して子どもを育てているのは新潟県の里親等委託児童率で44.7%でした。
最近9年間(平成16年~25年度末)で里親等委託率の増加幅の大きかった自治体に、福岡市や大分県が挙げられます。
全国里親委託等推進委員会が平成25年2月に発行した資料『里親等委託率アップの取り組み報告書~委託率を大きく増加させた福岡市・大分県の取り組みより~』を見ると、福岡市が本腰を入れて里親制度の活用に取り組んだ理由は「児童養護施設の空きがない!」ということがきっかけで、市民の力に目覚めたとあります。
福岡市は6.9%(16年度末)から25ポイント増の31.9%(25年度末)に、大分県は7.4%(16年度末)から20.7ポイント増の28.1%(25年度末)になり、福岡市は6位、大分県は8位と上位に入るようになりました。
この数字は、親と暮らせない子どもたちの現状を住民に伝え、養子縁組や里親制度の活用を促せば、施設ではなく“家庭”で育つ子どもたちを増やせる可能性が十分あることが分かります。

出典: INDEPENDENT ADOPTION CENTER
アメリカでは里親制度だけではなく、養子縁組も浸透しています。
上記のサイトはアメリカの『INDEPENDENT ADOPTION CENTER(IAC)』という民間団体が運営する養子縁組のサイトです。
ここには子どもを育てたい人や生まれる子を育ててほしい妊婦さんや実親がここに登録し、養子縁組を行っています。実親と養親が交流を図れる場を作り、ほかの家庭の養子縁組に至った経緯なども載っており、情報交換の場にもなっています。
ホームページを見てみると、子どもを預けたい実親のページと養子縁組したい養親のページがあり、それぞれの入り口から具体的な内容が書かれたサイトに飛ぶようになっています。
養子縁組したい人は既婚者、独身者、同性愛者と幅広く、セミナーを受講して一定基準をクリアすれば登録できるようです。最近、養子縁組した家族を紹介するコーナーには、男女の既婚のカップルだけではなく、男性同士や女性同士なども多くいます。
海外での普及は、国民の認知度と安心のシステムが鍵

出典: 日本子ども家庭総合研究所
海外ではどのような取り組みで養子縁組や里親制度の普及を図っているのでしょうか。
上記は児童福祉学を専攻し和泉短期大学教授の平田美智子先生による『香港(中国)の里親制度』という論文の引用です。
この論文を見ると、香港で里親制度が浸透しているのは、子どもと実親(生みの親)、里親(育ての親)が対等な立場で相互にコミュニケーションを取れる仕組みづくりができており、それを支援する民間団体と政府機関の連携、フォロー体制もしっかりしていることが子どもと実親、里親の安心につながり、里親制度が普及していることが分かります。
そもそも養子縁組と里親制度の違いは「戸籍上の扱い」

出典: 厚生労働省 里親制度等について
養子縁組は、実親(生みの親)の戸籍から子どもの籍を抜き、新しい養親(養父母)の「戸籍上も自分の子ども」として迎えます。実親は財産分与ができなくなり、子どもは養親の財産を相続する権利が発生します。
里親制度はそうではなく、戸籍上の親はあくまでも実親。実親が経済的理由や虐待、育児放棄などという理由で子どもが育てられなくなった場合に、子どもを里親に一時的に預けて育ててもらうシステムのことです。そのため、里親は子どもが育てられても実親が育てられる環境(もしくは18歳を迎えた子どもが実親と暮らすか、自立するかを選択できる年齢)になったら、育てている子どもと別れなければなりません。里親の場合は一定の額の養育費(生活費、学費、医療費など)を各都道府県市から支給されますが、養子縁組の子どもの場合、それはありません。養親が子どもの養育をすべて自費で賄います。
「養子縁組里親」といって養子縁組をすることを前提に、里親として子どもを一定期間育てる制度もあります。いずれにしても里親は、児童相談所で里親になりたい旨を申し出ることからスタートになります。その後、里親になる心構えを学ぶセミナーを受け、制度に納得できたら登録申請手続きに進みます。職員の家庭訪問や里親としてふさわしい生活環境か(里子が住める家のスペース、経済力があるか、里親が過去に虐待や児童ポルノなどの遍歴がないかなど)審査での合格が条件となります。そして晴れて里親として各都道府県市から認められ、親と暮らせない子どもを家に迎えて育てることができるようになるのです。
ここでは里親制度のことについて書きましたが、もし興味があったら、上記の厚生労働省のサイトをご覧いただければと思います。
課題山積も、まずは要保護児童を救う手段の認知を
日本では「見ず知らずの人の子どもを家庭で育てるのは…」「相性が…」「何かあったときの対処を考えると…」という慎重な声もあるでしょう。まずは児童相談所で相談して里親制度というシステムで子どもを育てることができると知る人が増えれば、施設偏重の現状を変えるヒントにつながるのではないでしょうか。
ここ10年の要保護児童数は、約3万6,000人以上。本来であれば、この数字を減らすことを目的にすべき事案です。また、現在の法律では、虐待した親も親権を維持することができ、その親が子どもを施設で育てるか、里親に預けるか、自分で育てるか決めることができることも可能です。これは子どもの人権を守っていないと、アルジャジーラの特集で児童養護学が専門の津崎哲雄京都府立大学教授(2015年3月末に定年退職)が話しています。
これらの問題は今後、子どもの命を守るためにも政府が本格的に社会問題として取り上げなくてはならない時期がくるかもしれません。
まずはこういう子どもたちの多くが施設で育っていること。里親で社会貢献できる手だてがあることを、この記事を読んでいただいた皆さんに知っていただけるだけでも嬉しいです。