吉田豪インタビュー企画:作詞家・及川眠子「たかじんはワガママで気が弱いオッサンです」(1) (3/3ページ)

デイリーニュースオンライン

Winkの作詞でもらったお金は、買い取り3万円

──ボクも当然作詞家として追ってはいたんですけど、パーソナリティ的なところまでわかってなかったんですよ。で、今回の騒動をきっかけに及川さんの本を読み出したら想像以上に毒舌で、想像以上に開けっ広げな人だなと思って。

及川 そうですか?

──ふつう、『夢の印税生活者』みたいなタイトルの本を出したら、もうちょっと夢のある部分を書くじゃないですか。全然違いますよね。

及川 うん、そんなに夢の部分があると思わないんで。

──もっとキツい現実を見せつける感じの。

及川 ああ、だっていま音楽業界はキツい現実ですよ。

──あの本、「東京ではほとんど無名に近かった。やはりあのゴキブリに似たような容姿が、都会人にはウケないんだろう」とか「あのオヤジ、小心者のくせに粘着質だから、殴る蹴る程度ではすまされなかったかもしれない」とか、たかじんさんに対する言及がヤバすぎてネットでも紹介したんですけど、実は気を遣って自粛した部分があるんですよ。これいま引用したらたぶん問題になるなと思って。

及川 え、なんですか?

──お金がない頃の話を無邪気に書いてたんですよね。「お金がなくてキセルしました」とか、「お金がなくて駐車違反も5回ぐらい握り潰して、出頭命令がきたところで車売り飛ばして逃げた」とか(笑)。

及川 あ、これはもう犯罪です(笑)。

──ダハハハハ! あっさり認めた!

及川 「講談社の校閲これスルーしちゃったんだ!」みたいな。

──この十数年で世の中のルールは厳しくなったんだなと改めて思いましたね。当時はこれぐらいならセーフだったんだなって。

及川 そう、だって10年ぐらい前ですから。講談社の校閲を通ってるから、その頃は大丈夫だったんですね。

──当時だったら笑って許されたんでしょうけど。

及川 いまはダメでしょうね。

──「いまは反省しています」とかの言葉を入れないとアウトというか……。でも、最初はそれぐらい儲かってなかったわけですよね。

及川 うん、儲かってなかったですね。ただ、私は早いほうですよ。3年目でヒット出たんで。

──最初にちゃんと歌詞を書いたのがポピンズだったんですか?

及川 ポピンズです。

──ボク、最初にアイドルイベントに行ったのがポピンズですよ。

及川 そうなんですか! あっという間に消えましたけどね。

──歴史から消されてるんですよ。そのあと吉本がアイドルを手掛けるたびに、「吉本が初めてアイドルを手掛ける」って報道されて、毎回「最初はポピンズだよ!」って言いたくなるんですよ。

及川 かわいかったですけどね。

──曲もよかったんですよ。

及川 うん、売野雅勇さんが書いてたんですよ。

──ポピンズに始まって、Wink、CoCo、井上貴子とリアルタイムで聴いてきて。

及川 珍しいですね、井上貴子知ってるのって。

──井上貴子がアイドル路線で歌手デビューするときに、「ちゃんとCoCoの人に頼んでるんだ!」って当時驚いたんですよ。ちゃんと正統派アイドルをやろうとしてるんだなって。

及川 私も1回しか書いてないですけどね、井上貴子は。

──いま井上貴子の『奇跡の扉』はほかの人が歌い継いでるんですよね、女子プロレスラーがユニットで。

及川 そうなんですか!

──CD-Rで売ってるだけだから、たぶん許可もちゃんと取ってないと思うんですけど(笑)。

及川 ハハハハハ! へぇーっ。井上貴子は1回観に行ったかな、後楽園ホールかなんかに。

──そういえばWinkの印税の話もショックでしたよ。

及川 買い取り3万円ね(笑)。

──買い取りシステムすごいですよね。洋楽に日本語詞をつける場合は3万だったから、Winkが売れても全然儲からなかったという。

及川 フジパシフィック音楽出版所属だったんで、フジパシフィックの場合は3万です、と。

──一律?

及川 一律ではないと思います、作家のランクで。

──まだデビュー数年だと3万ですよ、と。その結果、それが死ぬほどヒットして。

及川 そうそうそう!

──『およげ!たいやきくん』のカップリング、なぎら健壱の『いっぽんでもニンジン』状態で(笑)。

及川 そうなんですよ。いま洋楽は全部買い取りです、面倒くさいんで。二次使用、三次使用に関しては、そういう権利を持たせちゃうとっていうんで出版社が嫌がりますね。まあ、Winkはもう仕方ない、みたいなのもあったんで。

──ポリスターがWinkのおかげで相当大きくなったっていう伝説がありますからね。

及川 そうなんですよ。あれで儲かったんですよ。

──当時フリッパーズ・ギターがポリスターからメジャーデビューできたのはWinkのおかげって話がありますからね。及川さんが3万円で歌詞を書いて、それがレコ大級のヒットになっていなければ小沢健二もなかったっていう(笑)。

及川 ハハハハハ! 売れたときはメーカーが一番儲かりますから。

<次回に続く>

プロフィール

作詞家

及川眠子

及川眠子(おいかわねこ):作詞家。1960年、和歌山県出身。1985年に三菱ミニカ・マスコットソングコンテストで最優秀賞を受賞し、応募作の『パッシング・スルー』(歌:和田加奈子)で作詞家デビュー。作詞した作品としてWink『愛が止まらない』『淋しい熱帯魚』、やしきたかじん『東京』、アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』主題歌の『残酷な天使のテーゼ』などがある。また、アーティストのプロデュースも手がける他、ミュージカル、アニメ、CMなどにも詞を提供している。

プロフィール

プロインタビュアー

吉田豪

吉田豪(よしだごう):1970年、東京都出身。プロ書評家、プロインタビュアー、ライター。徹底した事前調査をもとにしたインタビューに定評があり、『男気万字固め』、『人間コク宝』シリーズ、『サブカル・スーパースター鬱伝』『吉田豪の喋る!!道場破り プロレスラーガチンコインタビュー集』などインタビュー集を多数手がけている。また、近著で初の実用(?)新書『聞き出す力』も大きな話題を呼んでいる。

(取材・文/吉田豪)

「吉田豪インタビュー企画:作詞家・及川眠子「たかじんはワガママで気が弱いオッサンです」(1)」のページです。デイリーニュースオンラインは、やしきたかじんインタビューマスコミ芸能連載などの最新ニュースを毎日配信しています。
ページの先頭へ戻る

人気キーワード一覧