何でもアリの新感覚ホラー! 白石晃士監督『超コワすぎ!』最新作発売記念インタビュー (5/5ページ)
雲水さんは何故敗れたのか
──監督の作品にもいわゆる霊能者が出てきますよね。『カルト』の龍玄、雲水の師弟コンビや、『コワすぎ!』に出てきた道玄さんなど。いずれも相応の実力者として描かれながら怪異の前に敗れていきますが、僕は本来ホラー作品では頼りになるはずの「実力ある霊能者」が簡単に敗れて死んでいくのにすごく恐怖を感じてまして。
「霊能者が勝てるような存在だとたかがしれているよな、という、根本的にそういう思いがあるので霊能者はどうしても勝てないんですよね。工藤は『AKIRA』の金田とか『ゴーストハンターズ』の主人公の影響が強いんですけど、要は馬鹿の勢いが一番強いというか。もちろん現実ではそうじゃないと思うんですけど、映画の中では原始的な生命力みたいなのが一番強かったり、頼もしい存在になったりする……映画の中でそれを感じると自分はワクワクして感動するので、そういうのをやりたいなあと思ってます。霊能者が死んでしまっても、馬鹿が勝つというか」
──『カルト』のNEOさんの強さもそういう感じなのでしょうか?
白石「NEOにしても頭良いかっていうとそうじゃなくて、勘で生きてるって感じですよね。勢いだけってところもある。知性を感じさせるような年配の霊能力者(龍玄)や誠実な霊能力者(雲水)が負けてしまっても、NEOなら勝ててしまう。『正しい人』って枠に収まらないキャラクターにこそ真の強さがあるみたいな。自分の中にそういう感覚があって、それが人間の強さなんじゃないかなって思いがあるんです。でも、『まともな霊能者が出てきたら負ける法則』が自分の中で出来つつあって、見てる人も気付いてきてるので良くないかなと思ってるんですが(笑)」
──雲水さんや龍源さんはどういう理屈で怪異と戦っていたんでしょうか? どういうエネルギーというか、たとえば異界と通じるエネルギーで異界と戦っていたのですか?
白石「彼らがやっていることは人間の世界での呪術の法則に基づいた戦い方ですよね。一つの法則化されたものです。呪術というのはそういうものなんですが、それでも人間が考える法則じゃないですか。人間が一生懸命どれだけ考えても、向こう側(異界)の理屈は価値観が違うんです。なるべくそれにも対応するようにはしてあるんですけど……。人間の霊とか動物の霊とかその辺には通じるんです。でも、異界のエネルギーというのは存在は知ってるんだけど、彼らも対処のしようが分かってなくて、自分たちの使える最大限のもので命懸けで戦うんだけど……例えば、アリがどんなに人間に対抗しようとしてアリなりの法則で祈ったりしたところで、人間はアリの存在に気付くことさえなく踏み潰すじゃないですか。それに近いかなって思ってます。価値観とか世界があまりに違うので」
──『コワすぎ!』に出てきた道玄さんもそんな感じで敗れていった……?
白石「道玄は異界の存在は知ってるんですけど、対抗する力は自分はもともと持ってない、ってのは分かってる感じですかね。ある程度は通用するんでしょうけど。アリにとって人間が異界だとしたら、アリ(道玄)は人間の吐く息くらいだったら岩陰に隠れてやり過ごすくらいはできるけど、人間が手を出してきてバン!とやられたらもうおしまい、みたいな。そういう感覚ですね」
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『超コワすぎ!』の今後のシリーズですが、白石監督のスケジュールの都合上、『FILE02』の後は続編まで二年ほど間が空くかもしれないとのことです。ニコニコ生放送で行われた「生でコワすぎ!」のラストで工藤さんは精神に異常をきたしてしまい、異常な呟きを最後にツイッターの更新も停止してしまいましたが、
おいおまえらすげえものみたらはんかいとまわやらよてこそこのくとろ
— 工藤仁 公式 (@kudo_jin_D) 2015, 6月 13
皆さん、ニコ生の『生でコワすぎ!』を見ていただきありがとうございました。ご心配をおかけしておりますディレクター工藤仁の状態ですが、体調を崩し、しばらく療養することになりました。
— 市川実穂 公式 (@ad_ichikawa) 2015, 6月 14
白石監督いわく、「もう少ししたら工藤が退院してツイッターも動き始めるかも」とのことです。いちファンとして工藤さんのいち早い復帰をお祈りしております。
著者プロフィール
作家
架神恭介
広島県出身。早稲田大学第一文学部卒業。『戦闘破壊学園ダンゲロス』で第3回講談社BOX新人賞を受賞し、小説家デビュー。漫画原作や動画制作、パンクロックなど多岐に活動。近著に『仁義なきキリスト教史』(筑摩書房)