WELQ問題の真相を読み解く(2)「買収の経緯に関して極めて不透明」~山本一郎×古田大輔×三上洋特別鼎談 (2/3ページ)

デイリーニュースオンライン

■事業部間のコミュニケーション不足?

山本)また、なぜ立ち上げた媒体の数が10個なのかということも、なぜ分野を分けたのかっていうところも、“なんとなく直感で”みたいな感じなんですよね。要は事業部間のコミュニケーション不足が問題点として浮かび上がってくる中で、違法かって言われると、お前らのガバナンスの問題じゃないかっていう話になって、あんまり関係ないといえば関係ないんですけれども。

報告書を読むと悩ましいことが書いてあって。ペロリを買収決断した守安氏は中川さんに対し、MERYについてはDeNAが運営する他のサイトと同様に、SEO、DAU、売上高などの目標を指示し、それらの目標達成手段として記事にSEO施策を行うことや、アフィリエイト広告、ネットワーク広告、動画広告を入れることを繰り返し求めてきたんです。つまり、お前もっとPV増やして売上上げろや、と守安さんは中川さんに言い続けてきたんですね。

ところが中川さんはMERYのブランド力を高めるためには、MERYの持つコンセプトである「ブランド力」のある企業のタイアップ広告を重視すべきだとして、守安氏のいう施策はMERYのブランド力を損ね、結果的にユーザー離れ、広告離れを招くと考えていたことから、安守氏から「B氏」(編注:村田氏のこと)の考え方を伝え、村田さんの考え方を採用していたと。ここだけ読むと、“中川まともじゃん!”となり、守安さんがほんとクズだなっていう話になるんです。まあ、報告書全編にわたって守安さんはクズだっていうことがいっぱい書いてあるんですけれども、おそらくは守安さんはメディアのビジネスについてまったく詳しくなかったのだろうということは想像がつきます。

報告書ではキュレーション事業において、コミュニケーション不全という問題も指摘された上で、上司には部下からの意見に耳を貸す寛容さが求められると。つまり守安さんには寛容さがなかったということですね。それがなければ、誰も上司にものを言わなくなる。つまり、誰も守安さんには何も言えなくなっていたということですね。

イエスマンだけで周囲を固めるのは心地よいかもしれないが、何も見えなくなるだけであると。上司の一言が部下に与えるインパクトは想像を超えるものがあり、“そのつもりはなかった”では取り返しがつかないと。このように、報告書で守安さんはさんざんディスられる。

三上))なんかあの、社長の講話で語られる怪しい話みたいな…。なんでそれが第三者報告書で語られるんだと。

山本)まあそうなんですよね。でも具体的な事業の状況が守安さんのところにいっていなくて、報告もあがっていなかったのでは、という推論にはなります。

守安さんのほうが、とにかく経営者として事業数値を達成するように各メディアに対して売上を求めてきたのははっきりしています。それに対して、中川さんやメディアを扱う組織の側は、メディアのブランド力を維持するために、SEO対策として記事を量産するよりは、メディアのブランド力を高められるような事業をしようとしていました。その中で記事の量産に踏み切らなかったMERYは黒字化する、そのほかの村田さん率いる9媒体はカネかけてクソ記事を量産しても売上は増えていかない。そうなると、何が正しかったのかと言う話になるじゃないですか。

三上))明らかに、クオリティを上げましょうというほうが、結果として収益を出している。でも守安さんは、KPIについてはユーザー数、SEOの表示位置。この2つの数字だけ見ていた。でもそれが結果、収益の数字になっていないという事ですよね。

山本)舵を切った方向が、おそらく守安さんからすると、数値管理的にわかりやすいほうに流れたんですよね。メディアって、わかりにくいじゃないですか。そういった点でいうと。

古田))メディアの信頼性とか、どのメディアのファンになるみたいな視点というものが、中川さんはそれを持っていたけれども、報告書を見た限りでは、DeNA全体の経営陣、守安さんにあったとは思えないんですよね。これだけのPV、DAUがある媒体なら、これだけの広告がついて当然だという、そこのところに認識のギャップがあったのではないかなという気はします。

山本)ですよね。実際、村田さんのiemoよりも中川さんのペロリのほうがブランドに関する記載は厚かったんですね。そういった点でいうと、MERYが黒転してから、むしろ村田さんのほうに足を引っ張られたという可能性はあるんですよね。MERYに関して、事業再開を検討しているという噂が絶えないのは、多分そこらへんがあるんじゃないかなと思います。

古田))実際、ペロリさん、MERYさんでいうと雑誌系、出版社系の編集者の方も次々に採用していたし、クオリティコントロールのところでまさに今飛び出そうとしていた段階に来ていましたね。

山本)PMIあるあるですね。これは「市況かぶ全力2階建」で書かれてしまったのであまり多くは語りませんが、PMIとは「ポストマージャ―インテグレーション」、つまり買収した会社が自分たちの部局とちゃんと組み合わさって、利益を出したり、お客様の利便性に役立ってくれるように統合していきましょうという話です。

そういう元気な会社を買った官僚的な会社が、その元気なところを生かしきれずに、元気な人だけ辞めていく、みたいなあるある話です。そういうのってちょっとあるじゃないですか。もちろん官僚的な組織母体のヴァリューもあるんです。これは普通の大企業だって、十分お客さんのニーズに応える力はあるんだれども、でも新しいことは出来ないので、買ってくるわけじゃないですか。いわゆるロマン枠ってやつです。

買ってきたなかで、新しいことをやる人たちをどうにか大きい組織とうまく組み合わせて、インテグレートしていかなかったら、買った意味がないじゃないですか。それをうまく整合性がある形で融和させていくのが経営陣でしょ、っていうところはあると思うんです。

古田))まさにそれが気になった部分なんですけれども。スタートアップって、法務部がないところが多いので、それはしょうがないですよね。最初にリーガルの人を社内に雇う事は出来ない、だからこそ本来であれば大きな企業が買収したときにはそこで法務を強化する。ただここで指摘されているのは、法務部門から指摘されているのにきちんと実行出来なかったと。でも、もう何年も経っているわけですよね。しかもその間、どういう指示を出していたかっていうと、むちゃくちゃに高い目標を与えて、これを達成しろー!と言っていたわけですよね。

そうすると、新しく加わった方が、めちゃくちゃ高い目標と、法務的な部分をがっちりしていくのと、どっちを優先させるのってなったら、そりゃあ社長に言われたら、そちらを優先させてしまう。それでいて、「DeNAのDNAを持っていない新しい人がちゃんと出来ていなかった」とまとめるのは、それは乱暴じゃないかと。

山本)まさにど真ん中、それですよね。守安さんから10個サイトをつくれと言われたと。DeNAパレットだっていう話なんですけれども。守安さんから10という数字を示されたあと、村田氏は、何のメディアを立ち上げるかという選定をしていたと。守安氏は対象領域を10という指示を出したものの、具体的にどのような領域を扱うかについては指示を出していなかった。とりあえず10個つくれ、以上!と。10個の領域を扱っていれば、キュレーション事業のトップを狙えるという守安氏の“感覚”から出た数字であると。感覚。まあ、勘ですね。根拠はない。

古田))これは本当に、現場の人は大変だっただろうなと思いますよね…。

山本)ですよね。ちょっとありえないくらいの話なんですけれども。キュレーション事業にあたり、DeNAの各部門から異動可能な人材が10名ほど集められ、あるいは新規にDeNAに採用されて入社した人たちによって進められることになりましたと。他の部門から、あいつ行っていいや、という人間が村田さんのもとに送り込まれたと。そこで採算を合わせろ、事業をうまく回せというのも難しかろうというところですよね。その点では、村田さんにとってもハードルが高かったと思います。おそらく高額買収したお陰で税金の都合もあって村田さんシンガポールから離れられないし。

その上で、ベンチャー企業の法務部門やコンプライアンス部門は上場企業に比べて脆弱であり、コンプライアンス意識も薄いことは決して珍しいことではなく、その結果として問題が起きたんじゃないかと第三者委員会の報告書ではなっています。あっ、そうと。

ただ、PMIっていうのは、それを見越したうえで統合するんです。要はこういう時価総額を目標とするから、利益目標はこれこれ、しかしこういうパーツが足りないので、この企業を買う、というのが本来の筋なんです。けれども今回のDeNAメディア事業の件は、この事業を買えばこのくらいの時価総額になるはずだから買う、と。そういった意味では、守安さんの側はあまりインテグレートするつもりがなかったんじゃないかと。メディア事業を買うぞ、理由はこれから伸びるから、以上!と。いくぞ、カネ突っ込め、ってなったのかもしれません。

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