【小説】永すぎた春/恋愛部長 (3/6ページ)

ハウコレ

■心の中は別の男のことでいっぱいだった

心の中は別の男のことでいっぱいだった

それから、奏多には内緒で、何度か米澤と会った。飲みに行くだけではなく、美術館の企画展や、米澤の仕事関連のイベントなど、2人で出かけるのにちょうどいい口実をつくって米澤は誘ってくれた。

そして、会うたびに、どんどん惹かれていく自分がいた。

米澤は紳士で、無理やり何か関係を迫るようなことは一切なかったが、さすが40過ぎの経験豊富な男性らしく、ぐっと押すべきところはわきまえていた。

一度、帰り際に、駅へと急ぐために、手を取られた。そのまま手を握っていたら、駅に着いた途端、ぐっと手を引かれ、腕の中に納まってしまった。思わず、息をのんで米澤を見つめると、「あ・・・・・・」と思った瞬間、唇に軽いキスが落ちてきた。

驚きのあまりフリーズしていたら、やさしく肩を押されて、乗り口のほうへ促された。「じゃあ、またね」米澤はやさしく落ち着いた口調で言って手を振った。

真由は、顔がカッカと火照るのを感じた。

初めてキスをしたその日は、舞い上がってしまって、家に帰ってから心ここにあらずだった。すでに家にいてゲームをしていた奏多が、こっちも見ずに、「おかえり―」と言うのに、返事も上の空だった。

奏多のことは今でも、変わらずに好きだ。でも、その「好き」は、恋と言うより、長年一緒にいるが故の、家族の情、友情のようなものに変質してしまっているように思う。

何より、奏多にこの恋の話をしたい、という無謀な欲望が胸に起こるのを、押さえるのに苦労した。

今まで、うれしいことも悲しいことも、一番に共有してきた奏多だ。「今一番うれしいことを真っ先に伝えたい!」と思うのは、至極自然なことのように、恋する真由には思えた。

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