【小説】永すぎた春/恋愛部長 (6/6ページ)

ハウコレ

■思い出すのは、子どもっぽい懐かしい笑顔

思い出すのは、子どもっぽい懐かしい笑顔

米澤と別れて、真由は、ちょくちょく奏多のことを思いだすようになった。

2人で暮らしたマンションを訪れ、そこがすでに別の人間の住まいになっていることも、このころに知った。

奏多へとつながるすべての糸が、とっくに切れていた。自分が気づかぬうちに。真由は愕然とした。

つい、半年前までは、家族のように思っていた人間が。一生傍にいると信じて疑うこともなかった、友人よりも、下手すると親よりも、ずっと親しい関係の人間が、まさか煙のように掻き消えてしまうなんて。もう二度と会えないなんて。

この先、彼が結婚しようが、子どもが生まれようが、病死しようが事故死しようが、真由は知るよしもないのだ。

真由は、それに気づいた日、奏多と別れて初めて、泣いた。大声を上げて、泣いた。

自分が失ったものが、いかに大きなものだったのか、その日初めて、真由は知ったのだった。

もう一生、会うことはない、たった1人の人生の伴侶となるはずだった男。

その男の手を、なんと簡単に手放してしまったのだろう。そうとは気づかないうちに。

もうきっと、彼と同じように、何もかもが自然でいられる男など現れないだろう。

今でも、一人寝の夜、寒々しい布団をかき寄せて、真由が夢に見るのは、奏多の笑顔だ。「戻ってきてくれたんだ!」と信じられないような歓喜の中で、涙ながらに見上げるのはあの、子どもっぽい懐かしい笑顔だ。

そして目覚めて、それが夢だと悟って、今度は苦い涙がこぼれるのだ。

もうこれから誰と出会っても、奏多と比べることしかできないだろう。二度と会えない、世界で一番愛していた、自分の分身の彼と。そして、彼より深く愛する男など、きっといないだろう、と思うのだ。(恋愛部長/ライター)

(ハウコレ編集部)

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