どんな美女にもまさる姫君!「源氏物語」ヒロインで極度のコミュ障・末摘花の恋愛エピソード【二】 (5/5ページ)
(これはまた……えらい姫君を抱いてしまったものだなぁ……)
あまりのショックに言葉も出ない光源氏でしたが、ここで気の利いた和歌の一つも贈らなければ貴公子の名が廃ります。
朝日さす軒の垂氷(たるひ)は解けながら
などかつららの結ぼほるらむ【意訳】朝日が射して、軒のつらら(垂氷)はすっかりとけたのに、なぜあなたの「つらら」は未だにとけないのでしょうか……
ここで言う「つらら」とは、なかなか光源氏を受け入れてくれない姫君の心、そして何よりも醜く垂れ下がった鼻の先を意味しています。
その皮肉をどう受け取ったのか、姫君は緊張のあまり「むむ(原文ママ)」とぎこちなく笑うばかり。
「それでは『末摘花(すゑつむはな)の君』よ……また今宵(※7)……」
そう言って別れを告げた光源氏は、フラフラになって家路をたどったのでした。
【続く】
(※4)頭中将の妹・葵の上(あおい-うえ)が光源氏の正室になっている。
(※5)平安時代の女性は基本的に本名(諱=忌み名)ではなく、通称で呼ばれる。
(※6)クロテン。北海道からシベリア方面にかけて生息しており、その毛皮は非常に高価で珍重された。姫君がやんごとなき身分であることを示している。
(※7)実際に来るかどうかは無関係。テンプレートな別れの挨拶。
※参考文献:
田中順子・芦部寿江『イメージで読む源氏物語〈4〉末摘花』一莖書房、2002年8月
日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan