日本同様に少子高齢化が深刻化する北朝鮮で「妊娠検査薬」が大ヒットするワケ

デイリーニュースオンライン

先進国の少子高齢化とか事情が違うようだ
先進国の少子高齢化とか事情が違うようだ

 あまり知られていないが、実は北朝鮮でも少子高齢化が進行中だ。理由は言うまでもなく、食糧難や劣悪な衛生環境、そして未来に希望を見出せない閉鎖的な体制にある。そこで北朝鮮政府は、国民に対して「産めよ、育てよ」の出産奨励策を推進中だ。

 ところが、肝心の若い女性の間では「妊娠検査薬」が爆発的な人気だという。生きにくい社会だからこそ、妊娠・出産もより計画的でなければならないというわけだ。

 北朝鮮国内にいる「デイリーNK」の取材協力者は編集部と電話取材に対し、次のように説明した。

「妊娠検査薬は中国に行って、持ち帰った人たちが売り始めたことで広まった。女性たちは通常、月経周期で妊娠の事実を判断したり、産婦人科の診断に頼ったりしてきた。でも自己診断は誤診が多いし、検査薬でなく手で鑑別する産婦人科医の内診もちょっと頼りない」

子供を産めない北朝鮮社会

 この協力者によると、日本の都道府県に相当する「道」にある大病院には「超音波」検査機もあるが、ほとんどの住民が利用する市や郡の病院にはこうした機械がないため誤診が多い。

 また、手続きも煩雑だ。

「産婦人科で妊娠の確認をするためには最初に婚姻関係を証明しなければならない。未婚女性、独身女性が病院で妊娠検査をするのは非常識なことで、社会的に『不良な女性』というイメージを持たれてしまう。妊娠が早期に確認できれば安全な『人工流産(堕胎手術)』が可能だが、時期を逃し6、7か月も経って胎児を人工流産させると妊婦も危険だ」(前出の取材協力者)

 そこで妊娠検査機が人気になるわけだが、中国製の妊娠検査機は約800〜1000円、韓国製は約1600〜2000円と値段に開きがあるものの、韓国製の方が信性が高い。そのため産婦人科医は密輸業者に韓国製品の入手を依頼し、闇市場で販売しているという。品薄時には倍の値を付けても売れるため、価格は上がる一方だ。

 ちなみに、北朝鮮の女性らが気にしているのは、健康のことばかりではない。「ビジネス」もまた、妊娠と出産を考える上で重要な要素なのだ。

「北朝鮮の市場では、女性の商売人が主役。そのため少女から大人の女性に成長するに従い、『わたしも稼がなくちゃ』と考えるようになる人が多い。逆に言うと、妊娠と出産に時間をとられると商売の流行に乗り遅れ、貧困に陥ってしまうとの危機感もある」(同)

 ところが、そんな切実な事情を汲み取ろうとしない北朝鮮政府は、堕胎を厳しく取り締まっている。そしてそのことが、産婦人科医が個人宅に出向き内緒で堕胎手術を行うという、「ヤミ医者」稼業の温床になってもいる。

 もちろん、北朝鮮の女性たちとて子供を産みたくないわけではない。問題は、彼女たちがそれを選択できなくしている体制の欠陥がある。そのことに金正恩氏が1日も早く気付くことこそが、どんな出産奨励策よりも効果が大きいのではあるまいか。

著者プロフィール

高 英起

デイリーNK東京支局長

高 英起

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNK」の東京支局長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』(新潮社)など。@dailynkjapanでも日々、情報を発信中

「日本同様に少子高齢化が深刻化する北朝鮮で「妊娠検査薬」が大ヒットするワケ」のページです。デイリーニュースオンラインは、貧困政治出産経済北朝鮮連載などの最新ニュースを毎日配信しています。
ページの先頭へ戻る

人気キーワード一覧