元少年A「絶歌」出版でマスコミの過熱報道に懸念

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加熱する報道合戦の行く先が懸念される
加熱する報道合戦の行く先が懸念される

 18年前、神戸連続児童殺傷事件で日本中を震撼させた「酒鬼薔薇聖斗」こと、「元少年A」が手記『絶歌』(太田出版)を出版したことで、書店が販売拒否したり、被害者親族が怒りのコメントを出すなど騒動が広がっている。

 それと同時にマスコミもこぞって、この問題を様々な面から再びクローズアップしている。

 私は、この手記の出版は、読んだ人たちが、それぞれの立ち位置でどう受け止め考えるかだと思う。そして「元少年A」は批判されても心底、被害者に罪の許しを請い続けることしかないと思う。

名古屋の女子大生は何を思うのか

 しかし、今回の手記を書いたことで懸念することが、ひとつある。

 出版の反動で少年Aそのものの動向がクローズアップされることになった。つまり、少年Aはどこでどんな生活をしているのか、どこでこんな本を書いたのかなど、少年Aの存在を追うマスコミや世間の目が別の視点で動き始めたことだ。

 実は、私のところにも出版以前からこんな情報がもたらされていた。

「少年Aは〇〇県のX市のどこそこに住んでいるらしい(すべて具体的)。清掃やいろいろなバイトで汗を流しているという。その彼が何を思っているか聞いてみたら、生活を追ってみたらどうか」

 という情報だ。

 その真偽はともかく、私もマスコミ人なので一瞬、彼を直撃しようかと興味を抱いたこともあった。だが、被害者のことを考えたり、「少年A」がいかに重い十字架を背負って生きているかを考えたとき、どうしても心も足も止まってしまったのだ。

「そっとしておいてやるのがいいのではないか。自省して自らの足で立ちあがる日はくる。また被害者は何年たっても苦しみを引きずっている」

 という思いだった。

 しかし、今回、少年Aが自ら本を書いたことで何か動き出しそうな予感だ。私は多くのマスコミの人や一般の人たちに望みたい。

 少年Aの手記をめぐり、本の中身の論争は大いにやってもいい。だが、今回の件を契機に少年Aの私生活や日常を暴き、追いかけるのは控えるべきだ。暴露は止めたほうがいい、と。

 そして、さらに思うことがある。「少年A」を意識し、ある意味憧れさえ抱いていた節のあった女子大生──今年1月、老女を殺害し逮捕された名古屋大の女子大生のことだ。彼女がこの手記を読んで何を思うかだ。人命の重さというものを改めてどう受け止めるかだ。

 いずれにしても、今回の出版、まだまだ多くの波紋を引き起こしそうだ。

田村建雄(たむらたてお)
1950年生まれ。地方新聞記者から週刊誌記者に。現在は月刊誌、夕刊紙などに政治、事件記事など寄稿。著書に『ドキュメント外国人犯罪』『中国人毒婦の告白』など多数。
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