「オヤジさん(田中角栄)に、『これだけは絶対守れ』と言われたことがあった。『カネを相手に渡す場合、くれてやるという姿勢は間違っても見せるな。カネは、じつは受け取る側が一番つらい。切ないのだ。相手のメンツを重じてやれなくて、どうするということだ。むしろこちらが土下座するくらいの気持ちで、もらっていただくということだ。こうしたカネなら、生きたカネになる』と。だから、あとでこんな声が届くことになる。『角さんから来るカネは、心の負担にならないからいいんだ』と。オヤジさんは、渡したカネのことを口外することも、もとより一切なかった」
筆者は、長く田中の秘書を務めた早坂茂三(のちに政治評論家)から、選挙の資金援助なども含めた「田中とカネ」について、こう話を聞いたものである。
田中には「金権」の“代名詞”が付いて回ったが、これは一面ではあったものの全面とは言い難かった。なぜなら、受け取る側の心の負担にならぬことに全神経を使い、渡したあとも一切口外しない。すなわち、“ひけらかす”ことがなかったからだ。
「カネを上手に切れて一人前」との言葉もある。田中のもとに、圧倒的に多くの人が集まったもう一つの側面が、この「カネが上手に切れる」ということだったのである。
さて、前回の本連載で、選挙において田中と三宅は、同じ中選挙区制時代の〈新潟3区〉で長く社会党と自民党に分かれてシノギを削ってきたが、二人には、時に敵対しつつも同じ郷土の「戦友」「同志」的な意識があり、互いにどこか心を許し合い、畏敬の念を持ち合わせていたと記した。
その三宅は昭和55(1980)年6月の衆参ダブル選挙で落選、失意の底に突き落とされたが、ここで田中が動いた。何をしたのか。田中の〈新潟3区〉内に張り巡らされた強大無比の後援会「越山会」古参幹部の、こんな証言が残っている。
「じつは三宅さんが落選した直後から、田中はポケットマネーから月々20万円を送り続けていたんです。議員年金はあるが、家の子郎党もいるし、それだけでは厳しいだろうと、生活の心配までしていたということです。田中らしいのは、その“渡し方”だった。三宅に近い人が受け取っていたが、『ワシから出ていることは、絶対に本人に言ってはならん』と“厳命”していた。
田中角栄「怒涛の戦後史」(17)元社会党副委員長・三宅正一(下)
2020.02.03 06:00
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