臨床心理士が教える! 人の話しを上手に聞く「傾聴」の姿勢とコツ
きちんと話しを聞いているつもりでも「聞いていないのでは?」と言われる、返事がズレて会話がかみ合わない、と思う人は多いのではないでしょうか。そこで、臨床心理士でスクールカウンセラーの藤永聡美さんに、「人の話しを聞くコツ」について尋ねてみました。
■聞き下手は、相手の話しに集中していない
「コミュニケーションの基本は『話す』と『聞く』ですが、特に『聞く』ことは意外と難しいものです」と話す藤永さんは、その理由をこう説明します。
「相手の話しに出てくる言葉の意味、伝えたいことを正確に聞き取らなければ、受け手が何を言おうとも会話にズレが生じます。特に、話しの内容に込められている感情を取り間違う、早合点すると、『この人は分かっていないな』と受け取られてコミュニケーションが成立しなくなるでしょう」
「話を聞けていない」と言われる理由はそこにあるのでしょうか。
「話しを十分に聞けないのは、内心、『どんな言葉を返そうかな』と徐々に自分の思考に気を取られて、自分の意見を話したくなるからです。この時点で、相手の話しを集中して聞いていないと言えるでしょう」と言う藤永さんは、そうなる主な理由について、次の8つのポイントを挙げます。
(1)アドバイスや説教をしたくなる。
(2)自分にとって興味があること、関心があることに話題を変えたくなる。
(3)自分の体験談や考えを話したくなる。
(4)興味本位で必要以上に質問する。
(5)批判したくなる。
(6)一般化する。
例えば、「普通はそんなもの」、「誰にでもあること」など
(7)価値を下げる。
例えば、「気にするほどのことじゃないよ」、「たいしたことじゃない」など
(8)冗談で返す。
■態度に気持ちがこもっている人は聞き上手
筆者も、人の話しを途中でさえぎり、会話が続かなくなった経験が幾度となくあります。次に、「聞き上手になるコツ」について、藤永さんはこう話します。
「話しを聞くのが上手な人は、話す時間と聞く時間のバランスがよく、聞く側としての態度に気持ちがこもっている、という特徴があります。
心理学だけでなく、福祉や教育の現場でも活用される、『傾聴(けいちょう)』を耳にする人も多いと思います。これは、相手の話しを真摯(しんし)に、かつ共感を持って聞き、相手の気持ちや体験を理解する姿勢や態度のことです」
ここで藤永さんに、傾聴の4つの姿勢・態度を紹介してもらいましょう。
(1)励まし……うなずき、あいづち、相手の言葉をそのまま繰りかえす、「もっと詳しく聞かせて」という声がけをする。
相手に「ちゃんと話を聞いていますよ」と受け入れているサインになると同時に、会話にリズムが生まれます。話し手にとっても話しやすい雰囲気が生じて、もっと話したくなる効果があります。
(2)言い換え……相手の言葉を自分なりに言い換えて、応答する。
相手に「自分の話し、気持ちが分かってもらえた」という安心感を与えることができます。また言い換えの言葉によっては、相手の内省を深める効果もあります。
(3)要約……ある程度、話がひと段落したころに、それまでの相手の話をまとめる。
相手に対して、話しを客観的に振り返るきっかけを与え、自分自身も相手の話しを正しく聞き取れているかを確認できます。
(4)感情の反映……話している内容から推察される相手の感情を指摘する。
「あなたは○○○と感じているのね」、「○○○な気持ちだよね」と伝えることで、相手が自分自身の気持ちに気付きます。また、こちらが相手に共感したことを伝える効果があります。
最後に藤永さんは、こうアドバイスを加えます。
「人の話しを聞くのが苦手という人は、まずは共感しながら聞くことを意識しましょう。共感は同情や感情移入とは違います。同情や感情移入は自分の思いが入る割合が高いですが、共感は相手の気持ちをそのまま感じ取ることです。
傾聴は最終的に共感を目指すものですが、難しいことでもあります。話しを聞きながら、相手が見ているのと同じ情景を映像で思い浮かべることがコツでしょう。イメージが湧くと、相手の気持ちがスッと腑(ふ)に落ちるときがあります」
「相手の話しに『どう答えようかな』と考えてばかりで、話半分に聞いていませんか」との藤永さんの指摘にドキっとします。共感してうなずきながら、それを態度で示すことや言い換えて伝える、そして感情を受け止めながら聞くことが重要ということです。
(岩田なつき/ユンブル)
取材協力・監修 藤永聡美氏。臨床心理士。中学生、高校生を中心にしたスクールカウンセリングや、子どもの発達相談の現場を中心に活動。また幼児期から学齢期の子どもをもつ母親の子育て相談を行う。