作家・なかにし礼「悩まずに考える、それが自分の意志で生きる意味」~直覚を信じる人間力 (2/2ページ)
そもそも最初のがんのとき、心臓の持病で長時間の手術に耐えられなかったので、ぼくは手術を勧める医師たちに逆らってインターネットで見つけた陽子線治療に賭けた。自分の意志で決断する――。ぼくは幼いころからそうやって生きてきた。いや、自分で決断してきたからこそ、いままで生き延びることができた。
終戦時、6歳だったぼくは満州から引き揚げでいつ死んでもおかしくないような経験をしました。あるときぼくたち家族が乗った汽車に敵の飛行機が近づいてきた。ぼくを座席の下に隠した母は、列車から降りて逃げた。汽車は敵機の機銃掃射を浴びて、ぼくの目の前でも多くの人が死にました。ぼくが生き残ったのは単なる偶然でした。難を逃れて僕を探しに戻ってきた母の言葉がまたいいんです。「あなたはこれから自分の意志で逃げなさい。母親だって頼りにしちゃいけないよ」 以来、僕は泣くことを止めて自分の意志で行動するようになった。爆弾が落ちてきたとき、悩んで思考停止していたら、必ず死んでしまう。ただ逃げても生き残れるとは限らない。戦場では何が起こるかわからない。死は偶然なんです。
それは日常でも同じ、考えれば必ず答えが出るというものでもない。人生はそれほど単純でも明快でもないからだ。しかし、考えを集中し持続することによって、単純明快でない世の中を突き抜けていくような、あるべき答えに到達することができるものと信じている。それを「直覚」とぼくは呼んでいるが、その直覚こそが人間に最善の方法を教え、決断し行動に移す勇気を与えてくれる。ぼくは困ったことがあっても悩まない。悩まずに考える。それこそが自分の意志で生きるということの意味だと思う。
撮影/弦巻 勝
なかにし礼 なかにし・れい
1938年、旧満州生まれ。離宮大学在学中に、シャンソンの訳詩を始める。その後、作詞家として『天使の誘惑』、『今日でお別れ』など、4000曲もの楽曲を手掛け、日本レコード大賞を3度受賞するなど時代を代表する作詞家として活躍。98年に小説『兄弟』を発表し、作家としても活動を始め、00年には『長崎ぶらぶら節』で直木賞を受賞。その後も数々のヒット作を世に送り出している。