天下の猛妻 -秘録・総理夫人伝- 宇野宗佑・千代夫人(下) (2/2ページ)

週刊実話


 宇野はその後、県議2期を経て衆院議員に転じ、何をやらせても手堅くこなす実務型政治家として定評があり、防衛庁長官、通産、外務など大臣を5ポストも歴任、そのうえで総理の頂に立ったのだった。そしての、「3本指」スキャンダルによる失脚であった。

 このスキャンダルにより総理在任中の69日間を「針のムシロ」ですごした千代としては、退陣直後の総選挙はいよいよ“背水の陣”でもあったのだった。当時の中曽根担当記者の証言がある。
 「それまで楽勝の選挙を続けてきた宇野は、演説が終わると必ず壇から下りて聴衆と握手、頭の下げっ放しだった。まさに、プライドを捨てた選挙だった。夫人は、連日、お願いの電話をかけまくっていた。まま街頭に出たときは、宇野の女性問題には一切言及せず、『夫は年とともに私を大事にしてくれるようになりました』などとだけで頭を下げていましたね」
 フタを開けると、新聞各紙の戦前予想は「ギリギリ当選か」というものだったが、前回票を大きく上回る形で、なんとトップ当選を飾ることができたのだった。新聞はおおむね「女性問題をバネに、攻めの姿勢で臨んだのが功を奏した」と総括した。

 宇野という政治家は、実は一方で趣味人、粋人との評があった。言うなれば、「文人政治家」ということである。自註句集など、俳人として10冊ほどの著作もあり、ピアノ、ハーモニカは玄人、絵画、書もよくやるし、麻雀、カラオケ、ダンスも巧みで、剣道も正真正銘の五段の腕前といった具合だった。また、人形の収集はじつに2万5000体に及び、自ら器用に郷土人形の制作もやってみせたものである。
 その上で「犂子」との俳号を持ち、その句集『宇野犂子集』には、次のような“名句”が散見できるのである。なにやら、ここでもまた「3本指」をホーフツさせるような粋な一句である。

小林吉弥(こばやしきちや)
早大卒。永田町取材48年余のベテラン政治評論家。抜群の政局・選挙分析で定評がある。著書に『決定版 田中角栄名語録』(セブン&アイ出版)、『21世紀リーダー候補の真贋』(読売新聞社)など多数。
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