【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第13話 (1/5ページ)
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【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第12話 ■文政七年 夏と、秋(5)引手茶屋を引き揚げた一行は、京町二丁目の裏茶屋、桐屋の奥の間に居た。
国芳とみつがいつぞや逢い引きに使ったまさにその部屋である。
「ほう」
すうっと開いた襖の向こうを覗いて、一同は感嘆した。
小づくりだが、欄間には梅に鶯を模し、床の間には薄(すすき)と女郎花(おみなえし)が飾られているなど、どこを取っても雅致(がち)のある良い部屋である。そしてやはりなんといっても青竹の連子窓の隙間から漏れる白い月光が美しい。
「ここの主人は余程の数寄者だな」
佐吉は嬉しそうに近江屋に耳打ちした。
国芳は至極真剣な表情でその部屋の隅々までを眺めたのち、
「花魁」
ついとみつの白い手を取り、連子窓の傍に横向きに座らせた。あまりに自然の事で、みつには驚く余地もなかった。
「その異国の美しい帯に」、
国芳がさりげない声で言った。
「ちょいと触れてもいいかえ」。
やや緊張した少年のような表情でそう言い、とろけるように優しく微笑した。
生成地の木綿に独特の臙脂や藍で東洋風の草花を鮮やかに模した更紗の帯は、一見した時から国芳の眼を惹きつけて仕方がなかったのだろう。
みつがつんと目を逸らすと、国芳はその帯に手を掛け、前結びにしていた帯を解き、垂れを背後に大きく広げた。
あっと言う間にしどけなく床に広がった帯は、まるで唐草や花を浮かべて移ろう大河のように、床の上に美しい流れを生み出した。
