【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第13話 (2/5ページ)
「綺麗だ」
近江屋と佐吉は驚嘆の声を漏らした。
その後も国芳は着物の裾の蔦と蜻蛉(かげろう)をよく見えるように配し、御簾紙(みすがみ)を持たせ、構図を整えた。
最後に藍鼠の手ぬぐいをみつの腕に掛けた時、
「綺麗だぜ、おみつ。・・・・・・」
みつの耳にはかすかにそう聞こえた気がしたが、顔をあげると国芳はもう傍には居なかった。
「どうです、近江屋の旦那」
国芳が少し離れた場所で腕組みをして自信たっぷりに訊いた。
連子窓の下には湯浴みするようにとろとろと月光をしたたらせる婀娜な女が一人、仕上がっていた。
真白の光が糸のように細く伝うそのうなじから、赤い蹴出しの奥に覗く白い脛(はぎ)から、吸えば酔うほどの色気が匂い立った。
「やあ、たまらねえよ。わざと芸者風にしているのもいいねえ。こんな絵出したら見世が一気に男の客で溢れらア」
近江屋は喜んで手を叩いた。
「あとアあんたの腕に任せたよ、国芳さん」
「合点」
国芳はペロリと唇を舐めるとすぐに矢立(やたて)を取り出しておもむろにさらさらと描き始めた。
「そんなら芳さんが描きあがるまで、俺ア近江屋の旦那と別の座敷で呑んでいやしょう」
佐吉の一言で男二人と新造の美のるや禿(かむろ)たちが部屋を後にし、みつと国芳が月明かりだけの部屋に二人きりになった。
気まずさなどという生易しいものではなかった。
みつを構成するすべての輪郭が、男の差し向ける犀利(さいり)な視線によって丹念に正確に捉えられ、なぞられている。
押さえつけられているわけでもない。
