【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第20話 (1/5ページ)

Japaaan

【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第20話

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【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第19話

◼︎文化八年、二月(2)

芳三郎は中庭に降り、思い切り手水鉢を蹴りつけた。岩はびくともせずに、足がじんじんしびれた。

「歌川歌川言いやがって、歌川の絵って何でエ!?」

腹が立って仕方がなかった。

なぜ国貞のような人物が歌川の看板を背負っているのか。なぜあんな人間の絵を江戸ッ子達は好んで買うのか。豊国も豊国だ。あの狐のような国貞にいつもべったりで、ひどく甘い。金と才さえあれば中身がどんな人物でも構わないというのか。

藍じみた紺屋のガキが、という国貞の嘲笑が頭の中に反芻した。

「言われなくたって分かってらア」

今までもずっと、引け目に思っていた。

実家が貧乏な紺屋である事を。

ずっと探していた。

爪の間まで藍じみた野暮な紺屋職人になる以外の道を。

ここではないどこか。

光り輝くどこか。

遠い遠い、どこか。

幼少の頃から、母親が与えてくれた武者絵本の中や、貸本屋で借りた源平合戦の絵巻の中に夢を見ていた。

今とはかけ離れた場所がどこかにあるのではないかと。

ひたすらに、模写をした。

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