【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第20話 (5/5ページ)
ここにゃア四十数人も弟子がいる。父っつぁんが手前を見てくれねえなんてのア、ここの皆思ってる事なのよ。父っつぁんは実力がある人間が大好きだからねえ。あの親父の目に止まっただけでも、おめえはすげえのよ」
あまりに熱を込めて褒めるので、芳三郎は少し擽ったく思った。
「でも、この中に入っちまえば一番の下っ端になるてえのア分かるだろう?何もかも一からなんだよ」
国直は突然キラリと眼の奥を光らせて、芳三郎の表情を覗き込んだ。
「なあおめえさん、国貞の兄さんを超えてえと本気で思うか?」
国直は、指で狐の形を作ってにこにこした。
「父っつぁんを国貞兄さんからひっぺがして、てめえの絵を見てほしいと本気でそう思うか?」
「・・・・・・うん!」
芳三郎は熱に浮かされたように、深く頷いた。それを見た国直は満足そうな表情をし、
「おめえみてえな気概のある奴を待っていたんだ」
そして言った。
「おめえ、今日からうちに来い」
「え?」
「帰るところ、ねえんだろ?」
実は国直の言う通りであった。
親に勘当されてこの豊国の浮世絵工房に入門した芳三郎には帰る家がなく、このひと月の間は工房の裏にある於満稲荷の小さな社に身を寄せ、菰を被って野宿していた。
「そんなら、うちに来いよ」・・・・・・
それは芳三郎にとって、これ以上ない福音であった。
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