「人生にほんの少しの彩りがあれば前を向ける」 作家・伊与原新が『月まで三キロ』で伝えたかったこと (1/5ページ)

新刊JP

『月まで三キロ』著者の伊与原新さん
『月まで三キロ』著者の伊与原新さん

東京大学大学院理学系研究科で地球惑星科学を専攻、博士課程修了の経歴を持ち、『ルカの方舟』や『コンタミ 科学汚染』『博物館のファントム』など、科学や理系的世界を題材にしたミステリの書き手として知られる伊与原新さん。

その最新作となる『月まで三キロ』(新潮社刊)は、これまでのイメージを一新するような人間ドラマが描かれた短編集となっている。

何もかもを失い、死に場所を探してタクシーに乗った男、ある事件から幸せを諦めかけているアラフォー女性、優秀な兄や個性的な伯父と対照的にフツーで何者にもなれずに悩むフリーター…。そんな主人公たちの心に空いた隙間を埋めていくものとは?

書店を中心に話題を呼んでいるこの短編集について、伊与原さんにお話をうかがった。

(取材・文:金井元貴)

■「好きなものをちゃんと大事にできて、揺るがない人は強い」 ――本書に収録されている6篇の作品に通じているのは、何かを喪失した人間が再生に向かおうとする姿です。そしてその中にサイエンス(科学)の要素が入ってくる、非常に印象深い作品でした。今回は書き下ろしになるんですよね。着想から教えていただけますか?

伊与原:そうですね。全作書き下ろしです。着想は、デビュー以来お世話になっている編集者が神奈川県真鶴町にある「遠藤貝類博物館」という博物館に行ったという話からです。

――貝の博物館に。

伊与原:はい。その博物館がすごく良かったとおっしゃっていて、そもそも貝には全く興味がなかったのだけど、いざ入ってみたら膨大な貝のコレクションに圧倒されたと。非常に良かったそうなんです。

貝ってそんな興味を持たれるようなものではないですし、どこが面白いのかなかなか理解できないものだと思うんですね。でも、そうやって示されると意外に関心がわくのかもしれない。その感覚を何とか小説にできないかと話していたんです。

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