人は望んだ生き方が叶わず命を絶つ 人は望んだ生き方の為に命を賭ける (5/7ページ)
もしも勇次郎が健康であったとしたら、当然、榎本に従って、箱館に向かう咸臨丸を指揮していたことだろう。そして清水港での攻撃に追い詰められてしまい、死ぬしかないこととなったとしても、その運命を潔く受け入れたはずである。
勇次郎のような、幕末最後の「侍」でなくとも、人は自分が「生きたい!」と思うように生きられないとき、死にたいと思うのか。そして自分が「生きたい!」と思う生き方であれば、死をも厭わないのか。
■2018年9月、46歳の男性が九州大学箱崎キャンパスで焼身自殺をした
2018(平成30)年9月7日、福岡県福岡市東区箱崎の九州大学箱崎キャンパスで、元院生の46歳の男性が焼身自殺した。男性は15歳で自衛官となった後に退官し、九州大学法学部に進学した、ある意味「異例」の人生を歩んだ男性は、1998(平成10)年、学問を更に極めるべく、大学院に進んだ。憲法学を専攻し、ドイツ語が堪能であったというその男性は、修士課程修了後、博士課程に進む。しかし、博士論文を提出しないまま、2010(平成22)年に退学。その後、2015(平成27)年ぐらいから、ひっそりと夜遅くに、大学の研究室を使用するようになったという。その間男性は、常勤の研究職を目指していたものの、2017(平成29)年3月頃、非常勤職を「雇い止め」となってしまった。その結果、家賃の支払いが滞り、住む家を失ってしまう。貧困の中、肉体労働のアルバイトを掛け持ちしながら、男性は大学で寝泊まりを続けていた。しかし9月末で大学移転のため、建物の取り壊しが決まっていたことから、男性は大学側から立ち退きを迫られていた。追い詰められた格好の男性はとうとう、研究室もろとも、自らを「滅却」してしまったのだ。
■焼身自殺した院生と鈴藤勇次郎の共通点と相違点
この元院生も、そして勇次郎も、偶然か必然か、平成29年度の日本における自殺者の統計で最も自殺者が多い年齢、40代だった。元院生にとっては、2017(平成29)年の日本人の平均寿命が女性は87.26歳、男性は81.09歳であることから考えると、人生の折り返し地点に来ていた。勇次郎にとっては「人生50年」が当たり前だった当時にあっては、総決算の時期が目の前に迫っていた。