「たかがゲーム」では済ませられない「ドラクエ」の物語性とは何か(さやわか) (3/7ページ)
ドラクエがポップカルチャーに与えた影響
そしてその物語は、日本人のものの見方に確実に影響を与えてきました。単純な例を挙げれば、私たちが思う「ファンタジー世界」を舞台にした物語は、その基礎的な部分がドラクエの世界観によって作られているに違いありません。多くの日本人は「勇者」がかっこよく剣を振るい、必殺技のような魔法を繰り出して「魔王」と戦うようなファンタジー作品を平凡なものとして眺めています。
しかしそういうファンタジー観というのは、80年代前半、つまりドラクエが成立するまではありませんでした。そもそも西洋のファンタジーというのは、厳密にはそんなヒーローもののアニメのようなものではありません。中世の剣士をモデルにした主人公が剣を振るうかもしれませんが、もっとずっと現実的なものです。
こうした世界観をドラクエだけが作ったとは言い切れないところはあります。しかし、そういうものを日本人の一般層にまで普及させて、誰もが当たり前のものだと考えるほどにさせた筆頭に挙げられるのは、ドラクエだと言って差し支えないでしょう。
そういう意味では、近しいジャンルであるポップカルチャーに与えた影響は、かなり色濃いものがあると言えるでしょう。たとえば今の若者が好んで読んでいるライトノベルなどの作品を見るとどうでしょうか。近年の流行は、現実世界で暮らす平凡な主人公が、ふとしたきっかけでゲームのようなファンタジー世界へ転生して、そこで冒険をすることになる、という筋書きのものです。こうした小説が多数掲載されているインターネットの小説投稿サイト「小説家になろう!」の名をもじって、この手の小説は「なろう小説」と呼ばれることもあります。
しかしなろう小説で重要なのは、異世界に転生した主人公だけが、その世界をゲームのようなものだと気づいているというパターンが多いことです。つまり主人公は、ゲームを攻略するようにしてその世界でうまく立ち回り、冒険を進めることができる。たとえば2016年にアニメ化されて好評を博した、長月達平の『Re:ゼロから始める異世界生活』(MF文庫J、2014)や、暁なつめの『この素晴らしい世界に祝福を!』(角川スニーカー文庫、2013)は、この手の設定をうまく利用した作品でした。