良い小説は「ボイス」が聞こえてくる 平野啓一郎と速水奨が語る小説論、演技論(前編) (1/5ページ)

新刊JP

『ある男』著者の平野啓一郎さん
『ある男』著者の平野啓一郎さん

弁護士の城戸は、かつての依頼者である里枝から、事故で命を落とした里枝の夫・大祐に関する奇妙な相談を受ける。そこで明らかになったのは「大祐」が全くの別人だったという衝撃の事実だった…。

『マチネの終わりに』(毎日新聞出版社刊)から2年、平野啓一郎氏が満を持して発表した最新作『ある男』(文藝春秋刊)。「私とは何か?」という問いとともに「愛」をテーマにした本作は小説としても高い評価を受けている本作がこのたびオーディオブック化。

そこで著者である平野啓一郎氏と、オーディオブック版『ある男』で朗読を担当した声優・速水奨氏のお二人に本作への思いとお互いの仕事についてのお話をうかがった。

(インタビュー・記事:大村佑介)

■複雑化した社会における人間の「優しさ」と「愛」 ――まずは平野さんにお聞きしたいのですが、本作の執筆のきっかけはなんだったのでしょうか。

平野:いろんなテーマが混ざり合っているのですが、社会が殺伐としていて本を読んでいる間くらいは美しい世界に浸って、精神的に満たされたいという願望を強く感じていて。そういう雰囲気のなかで、人間の優しさみたいなものを、複雑な状況のなかでうまく書ければいいなというのが一つありました。

もう一つは「もし自分がこういう人生じゃなければどういう人生を生きていたのか」という想像が誰しもあると思います。それを実際に実行し、他人として生きた人がいたらどうなるだろうか、ということを考えて、そこから話を膨らませていったんです。

――本作ではヘイトスピーチの話が象徴的に描かれていすが、そこにどのようなメッセージをこめられたのでしょうか?。

平野:「男だから」とか「何歳だから」とか「会社員だから」とか。そういったカテゴリーで判断されたりすることってありますよね。

今、社会の中にそういう雰囲気があって、それが差別的感情や憎しみと結びついてしまっているように見えます。でも、そのカテゴリーのなかに生きている一人ひとりは、それぞれの事情を持ちながら生きているし、多面性も持っている。

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