「甲子園がないから野球が楽しかったのかも」元球児の作家が見た「甲子園がなかった夏」(2) (2/5ページ)

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早見:その日、済美の3年生は練習に参加したくない人は帰ってもいいと言われて、練習するかしないかは本人たちの判断に任されたのですが、何人も帰っていく子がいました。それはそうですよね。甲子園がなくなったのに練習する意味がそんなにすぐ見つかるはずがない。監督が選手に言葉をかける場面よりも、帰っていく彼らの姿の方が現実を物語っていると感じました。

ただ、矢野泰二郎という選手(現・愛媛マンダリンパイレーツ)をはじめ、上で野球を続ける意欲がある選手は全体練習に参加していました。その切り替えの早さは大したものだなと感心しました。

――星稜高校の内山壮真選手(現・東京ヤクルトスワローズ)も印象的でした。甲子園がなくなっても野球への取り組みや主将としての態度にまったく乱れがないという。プロに進む選手のすごみを感じました。

早見:彼は本当に揺るがなかったです。ある本の取材で20人近くの政治家にインタビューをしたことがあるのですが、誰と会う時もそんなに構えることはありませんでした。ところが内山選手にインタビューする時は、こっちも本気で行かなきゃ見すかされると思わされるところがありました。前の晩からスイッチをいれておかないと、という感じで。

――独自大会への臨み方も興味深かったです。両校とも最終的には3年生を優先して試合に出すのではなくて、下級生も含めた「ベストメンバー」で戦う決断をします。私はこれが正解だった気がしますが…。

早見:これは何が正解だったかはわからないです。甲子園で行われた交流試合で星稜と対戦した履正社はオール3年生で、ベストメンバーで臨んだ星稜に10-1で大勝しました。この結果だけ見ると3年生が持っている勢いが勝ったという見方をすることもできます。

――星稜高校も済美高校も、甲子園への道が断たれても3年生が一人も脱落せずに活動を終えることができました。これはある種の同調圧力がはたらいた結果のように思えて、個人的にはあまり肯定的に捉えることができませんでした。

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