紫式部が才能を隠すため“痴れ者“のフリをした処世術「惚け痴れ」とは?能ある紫式部は爪を隠す! (3/4ページ)
すると相手は呆れ、やがて彼女に構わなくなります。痴れ者と思われても一向に構わない――。
この「惚け痴れ」は実際に式部が『紫式部集』に書き記している言葉で、「ぼけて愚かになる」という意味です。
実も蓋もない言い方をすれば、バカのふりをしたということですね。
わずらわしい人間関係を乗り切るそして紫式部は、「惚け痴れ」の演技を続けながら、宮中での人間関係を築いていったようです。以下は、『紫式部集』に収められたある女房の言葉です。
かうは推しはからざりき。いと艶に恥づかしく、人見えにくげに、そばそばしきさまして、物語このみ、よしめき、歌がちに、人を人とも思はず、ねたげに見おとさむものとなむ、みな人々言ひ思ひつつ憎しみを、見るには、あやしきまでおいらかに、こと人かとなむおぼゆる。
(あなたがこんな人だとは思っていませんでした。 ひどく風流を気取り、近づきにくく、よそよそしい態度で、物語好きで由緒ありげに見せ、すぐに歌を詠み、人を人とも思わず、憎らしい顔で見下す人に違いないとみんなで言ったり思ったりして、あなたを毛嫌いしていました。それが実際にお会いしてみると、あまりに穏やかで控えめなので、違う方なのかと思いました)
この言葉を聞いた式部は、
「人にかうおいらけ者と見落とされにける」とは思ひ侍れど、ただ「これぞわが心」と習ひもてなし侍る……
(「人からこんなふうに『おっとりした人」と見下されてしまった」とは思いましたが、「これこそ私の本性」と思って修練を続けました)
と述べています。