2024年紅麹事案 研究解説「我々紅麹業界に何が起こったか」行政は本当にプベルル酸を同定できているのか その2——NIHS(国立医薬品食品衛生研究所) (5/7ページ)

バリュープレス


・  図が誤りである:ならばA1の正確な保持時間が示されておらず、報告書の証拠価値がない
・  本文が誤りである:ならば「同じ保持時間」という記述は事実と異なり、A1のPA同定は成立しない
 いずれの解釈においても、A1がプベルル酸であるという結論は支持されない。
5 m/z一致の限界——分子式の一致は構造の同定ではない
 NIHS報告書はA1について「Positive modeでm/z 199.0236」が一致したとする。PAの水素付加体(C₈H₇O₆)のexact massは199.0237であり、確かに近似している。
 しかしm/z = 199.0236は分子式C₈H₆O₆を持つすべての異性体に共通する値である。前稿(㉞)で指摘した通り、プベルル酸が属するトロポノイド系には保持時間が近似しうる構造類縁体(stipitatic acid、viticolin A〜C等)が複数存在する。A1のピークが保持時間2.27分に出現している以上、それがプベルル酸の異性体である可能性を質量一致のみで排除することはできない。
 A1の物質をプベルル酸と同定するために本来必要な手順は以下の通りである。
・  B2との保持時間の一致(本件では不一致:差0.72〜0.77分)
・  MS/MS(タンデム質量分析)による開裂パターンの照合
・  標準品との共注入(co-injection)による同一ピーク確認
・  NMR等によるA1からの単離・構造解析
 NIHS開示文書にこれらの記載は存在しない。
6 本件の本質——収去なき断定とその連鎖
 B1とB2の確認が成立していることは認めつつも、本件の本質的問題は以下の連鎖構造にある。
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