「SLAPP訴訟に納得いかない!」作家への悪口書き込みで賠償請求された50代男性

デイリーニュースオンライン

ネットを舞台にした名誉毀損事案は急増中だ
ネットを舞台にした名誉毀損事案は急増中だ

 ネットで誰かの悪口を書いてしまったら、当事者から「俺の悪口を書いただろう」とクレームをつけられた……FacebookやTwitter、mixiなどのSNSを利用している人なら、そんな経験をしたり、聞いたりしたこともあるだろう。

 東京都に住む谷口智彦さん(仮名・50代、自営業)もそんな経験の持ち主だ。Facebook上で、作家として活動している面識のない自身の出身高校の後輩の悪口や、揶揄する内容を書いた。ただし名指しすると訴えられる可能性があると思ったので、それとなくぼやかした。

 直接の面識はなかったが、高校の同窓会などでその作家の評判を聞いていた。賛否両論分かれる人物だがメディアで顔を出して仕事をしている人間だ。多少の批判や揶揄で目くじらを立てることはあるまい。書き込んだ後、一抹の不安が過ぎったが気にしないことにした。

名指しでなくても第三者が読んで本人とわかればアウト

 谷口さんは書き込みにあたり、その作家を名指しはせず、作家が書いた作品中の文章やTwitterでの書き込みをFacebookにコピペし、「自称・作家様が偉そうにモノを言っているがこいつの言っていることは間違いだ。取材もせず、想像、思い込みで書いている節がある」などとFacobook上に書き込んだ。

 FB友達からは、「ホント、取材もせずに想像で書いているポンコツ作家だよね」「(作家が)バカじゃん」「こいつの本、買う価値ないね」とのコメントが数多く寄せられた。日頃からその作家が書籍やTwitterなどで主張する内容に反発心を覚えていた谷口さんは面識のない高校同窓の作家をやり込めたような優越感を感じた。

 名指しはしていない。しかし見る人が見ればその作家のことだとわかる。後で知ったが谷口さんの書き込み内容には、谷口さんによる事実誤認の内容も含まれていた。

 それから1か月ほどしたある日のこと。会社に内容証明郵便が届いた。谷口さんは自身が経営する会社の住所と電話番号をFacebookに掲載していたからだ。発信人は、谷口さんが悪口を書いた、面識のない高校後輩の作家とその代理人弁護士5人が名を連ねている。その内容は、およそ次のようなものだった。

 貴殿が○月○日にFacebook上で書き込みを行った内容は通知人の作家としての信用性を著しく下げる刑法及び民法上の名誉毀損行為である。同様に通知人が運営するTwitter上の書き込みを転載し真実ではない内容の事実を提示する行為もまた名誉毀損に該当する。

 また通知人の商業出版作品の記事を無断掲載する行為は著作権法上問題のある行為であり、通知人への著しい権利侵害である。よって貴殿に1500万円の損害賠償請求を求めるものである。本状到着後7日以内に当職までご連絡を頂けますようお願い申し上げます。なお、通知人に直接連絡を取る行為、自宅などへの訪問は控えて頂けますよう重ねてお願い致します。

 同時に簡易書留で、上記内容証明郵便と同様の文書と、さらに甲1号証、甲2号証の判が押された谷口さんが書き込んだ書き込み、タレントや芸能人ならば名誉毀損も重くなるといった「関連書籍」のコピーなど10点程度の“証拠”が送られてきた。

なぜ損害賠償金額は1500万円だったのか

 慌てた谷口さんは、ひとまず知り合いの弁護士に連絡し、作家の代理人弁護士に連絡を取ってもらうことにした。その際、弁護士を通して「これくらいのこと俺だけではなく誰でも言っているだろう」と思いの丈を述べ、それも相手方に伝えてもらうことにした。

 この時点では、まだ、どこか心の奥底では「同窓意識の強い高校の後輩、人間同士話せば何とかなるだろう」との思いもあった。同窓会に連絡を取り、その後輩作家と親しい人物に連絡を取り、作家の動きを封じ込めようと考え動いていた。

 しかし作家の代理人弁護士から、こうした谷口さんの動きを批判してきた。「正式受任でなければ話は聞けない」の一点張りだったという。一方、自身の弁護士への報酬が気になった谷口さんが金額を聞いたところ、こう返ってきた。

「正式に弁護士を代理人とした示談交渉となると損害賠償額1500万円なので、ざっと着手金で50万、示談交渉後には成功報酬で70万円の費用がかかります。示談がうまく行かなければ本訴訟になり更に費用が嵩みます。どうされますか?」

 一般に弁護士は30分の相談で約5000円の相談料を取る。だがこうした示談交渉や訴訟代理人となると、相手方(裁判では原告)が求める損害賠償額(訴額)により、弁護士費用が決められる。

 もちろん訴えを起こす原告側も同様だ。だがこのケースでは原告側は「約5万円から10万円程度で弁護士名入りの内容証明郵便を出しただけ」(弁護士)という可能性もある。

典型的なSLAPP訴訟で納得がいかない

 会社を経営する谷口さんは信用が命だ。下手に知らんふりして裁判にでもなりそれが噂になると信用に傷がつきかねない。なので示談交渉を弁護士に正式依頼することにした。依頼した弁護士からは、「典型的な恫喝示談交渉、恫喝訴訟(SLAPP訴訟)」といわれた。

 訴額を吊り上げて高額な弁護士費用を支払わせるという手口の嫌がらせだ。もっとも相手方である作家も谷口さんが支払った弁護士費用と同額以上の弁護士費用を支払っている。示談交渉時、求められたのは「二度と書き込みをしない」という本人自筆の誓約書提出と1500万円の慰謝料だ。とても払える額ではない。その額を適正な額に下げて貰えるよう、今、谷口さんは弁護士同士での交渉をしてもらっている。

「訴えられる側になってわかりましたが、これって訴えたもの勝ちですよね。確かに自分は褒められたことをしたとは思いません。でも作家が書いたことを『お前の書き込みで作家としての信用を失った』と訴訟して賠償金を取ろうという社会はどこかおかしいですよ」

 谷口さんの代理人弁護士の話では、「相手方は最低500万円を求めている」という。その内訳は、相手方である作家が支払った弁護士費用約200万円と慰謝料300万円の合計金額だ。

 現在、示談交渉中なのでこれ以上の詳細は話せないとした谷口さん。次の示談交渉の内容次第では自分の意地を通す意味でも訴訟に持ち込み、自分の言い分を裁判所がどう判断するのか確かめたいという。双方、いい形での和解は難しそうだ。

(取材・文/鮎川麻里子)

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