医学部「裏口入学」の一部始終…受験生が狙う新興医大の寄附金枠

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真っ当に挑む受験生にとっては腹立たしい話だが…
真っ当に挑む受験生にとっては腹立たしい話だが…

 大学入試シーズンもたけなわ。受験生や親たちにとっては、将来を懸けた真剣勝負に必死のラストスパートをかける時期である。しかし、その勝負に“抜け道”が存在するとしたら——。

 2014年夏、ある前衆院議員の元政策秘書らによる某私大医学部への「裏口入学」詐欺疑惑が報じられた。読売新聞などの報道によると、元秘書らは、受験生の孫を持つ80代男性に「何人か合格させた実績がある知人を紹介する」と持ちかけ、裏口入学の仲介料名目で現金計約2100万円を受け取ったという。

 捜査関係者の話では「前議員も大学側もこの話をまるで知らず、元政策秘書らが最初から仲介料をだまし取るつもりで進めた架空の話だった」というのだが、現実に「裏口入学」というルートは存在するのだろうか。

医学部入試を中心に実在する「裏口入学」

 ある私立大学の関係者は言う。

「いまどき、裏口入学なんてないですよ。世間の監視の目も厳しい時代ですし、政治家の口利きなんかもあり得ません」

 一方で、別の私立医科大関係者は次のように話す。

「箸にも棒にもかからないレベルの者を無理やり押し込むような露骨な裏口はまずありません。しかし私大医学部に限れば、政治家などの有力者の口利きで“寄附金”を条件に入試の点数に下駄を履かせるということは、いまもありますよ。ただし国公立や、私大でもいわゆる“名門”といわれる大学にはまずないと思いますが」

 長年にわたり国会議員の秘書を務めているX氏の証言も同様である。

「『いまどき裏口なんてない』というのはあくまで、体面を考えた綺麗事でしょうね。裏口入学の口利きは、政治家とって実にうまみの多い陳情処理の一つなんですよ」

「陳情」とは、本来はその事項について決定権を持っている国や地方公共団体などの公的機関に実情を説明し、善処を求めることであるが、永田町では政治家に依頼するあらゆる「口利き」をひっくるめて陳情と称する。そして、コトがうまく運べば「政治献金」という名の報酬を要求するのである。

 X氏が続ける。

「実は私も過去に医学部への裏口入学を取り持ち、首尾よく成功させたことがあります。いくら私学でも伝統校は相手にしてくれないから、当然、狙いは新興医大の“寄附金枠”ということになる。入試の成績に応じて寄附金の額を決め、それを払えば、点数に下駄を履かせてくれるわけです」

経営苦しい新興私大の「寄附金枠」が狙い目

 X氏自身が関わったという裏口入学斡旋の一部始終はこうだ。

 当時仕えていたN議員のもとに、九州地方のある開業医からこんな陳情が舞い込んできた。

「息子のやつ、模擬試験では結構いい成績を取るんですが、いま一歩足りないらしい。医学部ならどこでも構わないから、ひとつ、先生のお力で何とかなりませんか」

 こういう場合、狙いが立つのは偏差値があまり高くない新興医大である。国公立や、卒業生からの潤沢な寄附金が期待できる名門校は望み薄。一方、私立で、経営の苦しい新興医大には募集人員の一定数に「寄附金枠」なるものがあるのだという。

 医学部の運営には、高価な医療機器や臨床用設備、附属病院の維持など膨大な費用がかかる。通常の学費以外のカネを集めて新入生にタカらないことにはやっていけないのが現実なのである。

「“医学部裏口入学”の陳情を叶えるためのルートは4通り考えられました。まず1つめは、N議員が所属する派閥の親分であるK議員を頼る。K議員は私立の某医大と繋がっていて、個人事務所の経費をそこに持たせているくらいですから、先生が口を利けば医大側は嫌とは言わない。2つめの手は、N議員と同じ文教科学委員会のS議員に頼み込むこと。S議員は当時、某地方で私立医科大の理事を務めていました。3つめは、私学助成金を握る文部科学省の高等教育局長か私学部長に口を利いてもらうこと。4つめは、N議員と同じ派閥に所属する、医師会出身のM議員。日本医師会の副会長ですから私立の医学部には顔が利くし、近々会長選に立候補するとの噂もありましたから、カネはいくらあっても足りないはずでした」(X氏)

裏口入学を斡旋するOBの「仕切り屋」

 N議員とX氏は、“成功率の高さ”と“頼みやすさ”を勘案したうえ、M議員のセンでいくことに決定。議員会館のM議員の部屋に足を運び、医師会から派遣されている医師で政策秘書を務めている某氏に事情を話すと、

「新興医大では、卒業生のなかに仕切り屋のような人物がいて、寄附金枠の窓口になっていることが多いんです。S県のS医大なら何とかなると思いますよ。仕切り屋の一人を知っているので紹介します」

 という話になったという。X氏は語る。

「その“仕切り屋”は、S県内のさる公的医療センターの所長を務めている人物でした。『試験である程度の点数を取ってくれれば、寄附金で下駄は履かせられると思いますよ』とのことでしたので、さっそく九州にいる父親(依頼者)に連絡を取り、M議員と“仕切り屋”に引き合わせる日取りを決めました」

 結果、医学部合格まで“ちょっと足りない”福岡のご子息を無事にS医科大へ入れることに成功したという。

 では、肝心の裏口入学の「お値段」はいくらだったのだろうか?

「父親と先方を引き合わせた後は当事者間の話し合いとなったので、私自身は具体的な金額については把握していないんです」

 X氏はこう煙に巻くが、少なからぬ金銭の授受が行われたことは想像に難くない。一説には、医学部の裏口入学の相場は4千万〜6千万円とも言われている。

 古くは1977年に、奈良県立医科大学が過去11年間の入学者600人のうち3分の1以上の裏口入学を認めていたことが表面化した事件があった。また最近では、2012年に「医学部への裏口入学を斡旋する」として受験生の親から総額1億6千万円をだまし取った男が逮捕される事件が大阪で起きている。

 息子や娘をどうしても医者にしたい親たちと、切実にカネが必要な大学医学部。“需要と供給”は昔もいまも強固に存在するのである。

(取材・文/永井孝彦)

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