週刊少年ジャンプ『ベストブルー』連載打ち切りの理由を考察「競泳を漫画で描く難しさ」 (4/5ページ)

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「要するに力いっぱい泳げばいいんでしょう?」の世界

 そして、フェイズ3「部内でレギュラー争いをする」、フェイズ4「大会で戦う」において本格的な競泳勝負が描かれるのですが……。

 本作では冒頭と最終話に次のようなテキストが挟まれます。

「水中(そこ)には優れたコーチも頼れる仲間も、偶然の勝利すら入る余地はない。あるのは己の実力のみ――。それが"競泳"!!」

 おそらく、これが平方先生の競泳に対する根っこの理解だと思われます。でも、こういうこと言われると、「えっ、じゃあ練習がんばって、本番でも一生懸命泳ぐだけ??」と思ってしまいますよね……。それじゃ試合中に何のドラマも生まれそうにない気がするんですが、実際に概ねその通りでした。フェイズ3以降では、以下の5つの戦いが描かれます。

「青野 vs 尾永」(レギュラー争い)
「伊達 vs 海王」(メドレー)
「芽城 vs 烏賊崎」(メドレー)
「仁兵衛 vs 姫川」(メドレー)
「青野 vs 水神」(メドレー)

 それで、これらの結果ですが……

「青野 vs 尾永」:二人とも練習を頑張って一生懸命泳いだ結果、青野が勝った。
「伊達 vs 海王」:伊達の地力が海王より上だったので勝った。
「芽城 vs 烏賊崎」:ペースを乱したが気合で頑張って芽城が勝った。
「仁兵衛 vs 姫川」:仁兵衛はプレッシャーに弱いがそれを乗り越えた。後は地力が上なので勝った。
「青野 vs 水神」:伊達、芽城、仁兵衛が大幅リードしてくれてたので青野が勝った。

 と、このように、概ね「地力が上だから勝てた」「勝てる状況だったから勝てた」というだけの話になっています。「偶然の勝利すら入る余地はない」のだから、それはそうなのかもしれませんが……(しかし、芽城の勝因だけはよく分かりません)。これがまたキャラクター性の薄さに繋がってまして、「必殺スイム」みたいなのも特にないので、「この先輩は泳ぎが速い」「この同級生も泳ぎが速い」みたいに、水泳面での特徴がみんな「泳ぎが速い」に収束してしまうのです。

 それにそもそも、競泳において他者の存在が主人公に何の関係があるのかよく分からないんですよね。何しろ僕たちは競泳の競技性などロクに知りませんから、「要するに力いっぱい泳げばいいんでしょう?」くらいの理解しかありません。一人で頑張る世界という認識だし、作中冒頭でもそれが語られています。

 それに作中で競泳の競技性がほとんど説明されないので(5話で駆け引きについて触れられましたが、以降、駆け引き要素は出てきませんでした)、それ以上の理解が得られません。同級生の部内ライバルとか、最強のスイマーとか出てきても、「それが何なの? 主人公は力いっぱい泳げばいいだけじゃないの??」としか思えない。

 なので最終話で、「すごいスイマーの水神がすごい圧力で追い上げてきてるのに、青野は失速しないからすごい」と言われても、読者としてはポカーンとなってしまう。「隣の泳者がどうであれ、力いっぱい泳げばいいだけじゃないの???」としか思えないのです。隣のレーンの泳者がどういう影響を与えてくるものなのか全然分からない。練習で出してる自己ベスト目指して力いっぱい泳げばいいだけじゃないの、としか思えない。

 実際のところは、競泳経験者によりますと練習でのベストタイムを本番で出せる訳では全然ないらしく、そもそも自分がどのくらいのペースで泳いでるかも分からない。なので隣の泳者を目標とするしかなく、隣の泳者に引っ張られて記録が伸びたり、逆にペースが乱れたりすることはよくあり、そこで駆け引き要素が生まれるらしいのです。

 なので、実は「要は力いっぱい泳げばいい」だけではないらしく、作中で「ぶつかりあって磨き合う」「張り合える相手のいる大切さ」を強調しているのは、これを前提としているのだと思うのですが、いかんせん前提の説明がないから素人にはさっぱり分からない。それに青野くんは最終的に隣の泳者を気にせず泳いだのが勝因なんですよね……。うーん、よく分からない。

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