【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第4話 (2/6ページ)
「良いのか。どうせつまらねえ絵だぜ」
「つまんなくていい」
「そうかよ」
「あたし、全然、外に出られなかったんだ」、
女は何かを決心したように吐露した。
「物心ついた時には、引っ込み禿(かむろ)に決まっていたから」。
引っ込み禿というのは、将来看板花魁にするために置屋の奥に引っ込めて大切に育てられる上玉の禿である。
それを聞いて、女の肌膚(はだ)が抜けるように白いのも、素人(じもの)には感じたことのない不思議な気韻を感じるのも、合点がいった。
「それじゃあめえは、花魁かえ」
男が驚いた表情をすると、これでもね、と女は微笑(わら)った。
「今は割かし自由だけれど、一人前になるまでは置屋の奥の間で毎日休む暇もなく芸事を叩き込まれて、飯の時に皆から外の噂を聞くのが一番楽しみだった。その時からあんたの事はよく噂になってた」
「なんて」
「『あの男の後ろには、子どもの花が咲く』って。あたしも物陰なんかから見ていないで、あんたの後に咲く花になりたかったよ」
そう言って淋しそうに足もとの石ころを蹴った女が、男の目の前で突然、緋色のべべを着た哀しい少女に変わった。
男が慌てて瞬きすると、少女がぱっと女に戻った。そよぐまつげに縁取られた、薄墨の目だけが変わらない。少女の目のまま大人にならなければならなかった女の淋しい微笑を見て、男の胸は詰まった。
女はそんな男の顔を見て、慌てて話を変えた。
「あんた、いつもさ、子どもに何か言い聞かせてから凧を渡しているでしょう。あれ、なんて言っているの」
「あれア、約束だ」
「約束」
「凧を買った子どもとな。
