【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第11話 (2/6ページ)

Japaaan

化粧を終えたみつは、この日のために佐吉が用意した着物に着替えた。佐吉が揃えた髪飾りと着物は、花魁がまとうにしては落ち着いたものであった。しかしひとつひとつは大変高価なもので、笄(こうがい)は本物の鼈甲であったし、簪には銀に珊瑚(さんご)の玉が付いていた。着物の方には蜻蛉(かげろう)と蔦の模様が入っており、地の色はみつには分からないが濃い染めが裾に向かうにつれ淡い色に変化する見事な染めである。

帯は異国の珍しい草花を染め抜いた一丈二尺ほどの長い更紗であった。その上に、裾に富貴綿をたっぷり入れた豪奢な仕掛けを羽織る。新造の美のるや番頭新造が着付けを手伝い、禿までもが仕掛けの裾に気を配ったりしながら、皆でどこから見ても美しい花魁を造り上げてゆく。

階下では、新造たちがすでに半籬(はんまがき)の奥に並んでそれぞれ三味線の調子をととのえ、若い衆たちは神棚の燈明から火を移して張見世の雪洞(ぼんぼり)を灯したり、客が段梯子の下の下足箱に使う札を集めたりと慌ただしく夜見世の支度をしている。

暮れ六つ。

一階奥の内証(ないしょう)で楼主が簾を下ろし、神棚に手を合わせ、鈴を景気良くしゃんしゃんと鳴らした。それを合図に新造が冴えた音で三味線を一つはじけば、若い衆が麻紐でまとめた下足札でカランと高らかに応じる。張り見世に並んだ新造たちが三下りに調子を合わせて清掻(すががき)を始め、下足札も調子を取って打ち上げる。

その間に粉黛の良い香りのする姉女郎たちが二階からぱたぁんぱたぁんと上草履の音とともに天女のように降りてきて、格子の奥の張見世に並ぶ。皆並び終えると三味線の曲が変わる。

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