【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第11話 (3/6ページ)
籠は恨めし 心ぐどぐどあくせくと 恋しき人を松山は やれ末かけて かいどりしゃんとしゃんしゃんともしおらしく 君が定紋 伊達羽織 ・・・・・・
夜見世のはじまりは、まさに現から夢幻に向かって戸が開かれる瞬間であった。
葛飾応為「吉原格子先之図」Wikipediaより
お職を張るみつは、一番最後に階段を降りる。
他の女郎たちが張見世に並び終えたところで、障子の向こうから声が掛かった。
「花魁、紫野花魁。そろそろですぜ。・・・・・・」
この心地の良い低音の持ち主は、肩貸し役の直吉(なおきち)である。みつが唯一自分の部屋に近づくのを許している若い衆であった。新造の美のるが妹なら、この直吉の事は弟のように可愛がっている。
「あいな、今出るわ」
みつは撫ぜていた飼い猫のぶちを床に下ろし、立ち上がった。
花魁は引手茶屋までの道中、転ばないように若い衆の肩に手を置いて歩を進めるが、みつの場合は必ず直吉である。
「直坊。階段降りるのに、肩を貸して」 「あいよ」
みつの言葉で直吉は頷いてくるりと後ろを向いた。直吉の肩は、手を置くのに安心感のある男らしい肩だ。