【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第27話 (5/6ページ)

Japaaan

面白くねえわきゃねえ」

 

「ええ、そりゃもう、あたし水滸伝が大好きだし、一日で読みきっちゃったんだから」

 

「そうか、そりゃ良かった」

 

 

「実は、師匠が亡くなったと聞いてからずっと国芳はんに渡したかったものがあるの」

 

「何でえ?」

 

「これ。・・・・・・」

 

柳行李を開けて取り出したのは手ぬぐいだった。

しかし、普通の手ぬぐいとは様子が違う。

 

「何だこれア。・・・・・・」

 

その布を見るにつけ、国芳は開いた口が塞がらなくなった。

布の上には、見たこともない細やかさでびっしりと刺繍がなされていた。

 

「暗くして見て。」

 

開いていた障子窓を閉め、ほの暗い部屋の中で手ぬぐいに再び視線を落とすと予想だにしない模様が浮かび上がった。

一針一針かすかな糸の輝きの差異で縫い分けられ、闇に浮かび上がったのは九頭の龍である。しかし、余りに繊細な明度の差で模様を入れてあるために、行燈の側に寄って光に晒すと忽然とその龍たちは姿を消した。そして闇に戻すと、途端にまたすうっと龍が浮かび上がるのである。

 

「九紋龍を縫ったの。国芳はんに元気になってもらいたくて」

 

「すげえ・・・・・・!こいつア妖術か、それとも手妻(てづま)か」

 

ふふ、とみつは笑って首を横に振り、

 

「色の見えないあたしの目だから、縫えたの」

 

少し得意そうに言った。

 

「そうか。」・・・・・・

 

国芳は舌を巻くと同時に、体の底から得体の知れない熱いものが沸き上がるのを感じた。

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